電力小売システムはコストに大きな違い、ITベンダーから導入する場合の注意点:電力自由化で勝者になるための条件(22)
すでに数多くのITベンダーが小売電気事業者を対象にしたシステムを提供している。外資系の大手ITベンダーをはじめ、電力会社やガス会社が構築したシステムを販売するベンダーもある。導入コストに大きな差があるほか、小売事業をサポートする機能面の違いや改修のスピードにも注意が必要だ。
連載第21回:「ノウハウが重要な需給管理システム、ベンダー選定は実績とコストで」
電力の小売全面自由化が始まる2年ほど前から、IT(情報技術)ベンダー各社が小売電気事業者を対象にしたサービスの提供を表明して現在に至っている。大手のITベンダーを筆頭に、海外製のソフトウエアを国内で販売している形態も含めると、20社近くのベンダーが存在する。
ITベンダーの中には高圧の事業者にシステムを導入した実績や、海外で電力の自由化に対応してきた実績などを差別化の要素として、コストの高い仕組みを展開している例が多く見られる。一方では低圧の事業者に向けて、需要家あたりの課金モデルを適用した低コストのサービスも増えてきた。小売電気事業者にとってはシステムの選択肢が広がっている(図1)。
ただし初期の導入コストが安く見えても、実際にシステムの要件定義を実施すると、カスタマイズの費用が膨らんでコストが増大してしまうケースは少なくない。導入後の改善など、事業を継続していく中で発生する運用面のコストも加味しなくてはならない。
ITベンダーのタイプごとに、選定時に注意すべき点がある。外資系のITベンダーや海外製のパッケージ・ソフトウエアを提供している国内のITベンダーの場合には、導入コストの高いものが多い。事業者の戦略変更や国の制度設計の変更に迅速に追随できるかにも注意する必要がある。
ガス会社やケーブルテレビ会社のソフトウエア、あるいは一括受電の機能を含むマンション向けの顧客管理システムを製品化したシステムであれば、相対的に安価なものが多い。ただしスイッチング支援システムや送配電事業者との連携を含めて、電力事業に関するノウハウが懸念点である。
電力会社の子会社が提供するソフトウエアもある。電力事業のノウハウについては十分だが、小売電気事業者に必要な業務ノウハウをすべて網羅しているか、今後の新規事業にも追随できるか、といった点を見極める必要がある。
小売業務を効率的に立ち上げるために、他の小売電気事業者が開発したシステムをそのまま利用する方式もある。この場合には自社の事業戦略に合わせてシステムを改修しにくいというリスクがある。システムが戦略の変更にスピーディに対応できることは、電力事業を継続していくうえで非常に重要なポイントになる。
連載第23回:「電力小売システムのあるべき姿を考える、最初から過大な投資は禁物」
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