運転開始から90年の水力発電所を全面改修、出力を上げて買取制度へ移行:自然エネルギー
新潟県の山間部で90年前から運転を続けてきた水力発電所の全面改修が始まる。もともと化学品の工場に電力を供給するために造られた水力発電所で、工場の周辺にある3カ所の発電設備すべてを改修する計画だ。発電能力を合計で500kW引き上げ、固定価格買取制度で売電して収益を改善させる。
大規模な改修に着手する水力発電所は、小売電気事業者の伊藤忠エネクスがグループ企業を通じて運営している。豪雪地帯で知られる新潟県・上越市の山間部にある3カ所の水力発電所が対象で、最も古い設備は90年前の1927年に稼働した(図1)。そのほかの2カ所も1929年と1938年に運転を開始している。
当初は化学品メーカーの日本曹達(にっぽんそーだ)が上越市で1920年に操業を開始した「二本木工場」に電力を供給するために建設した(図2)。伊藤忠エネクスグループは2008年に日本曹達から3カ所の水力発電所を取得して発電事業を続けてきた。いずれの発電設備も長年の稼働で老朽化したことから全面的な改修に着手する。
3カ所を合わせた発電能力は改修前の8500kW(キロワット)から改修後には9000kWへ増強する計画だ。水車発電機のほかに発電所の建屋や導水路を含めて設備を一新する(図3)。2017年6月をめどに着工して2020年12月に全体の工事を完了する予定になっている。3カ所の水力発電所は工場の周辺に分散していて、冬の期間は積雪のために工事を実施できない。約3年半をかけて発電設備の全面改修に取り組む。
改修に必要な事業費は80億円を見込んでいる。すでに固定価格買取制度の設備認定を取得済みで、完成後は買取制度を通じて全量を東北電力に売電する方針だ。伊藤忠エネクスは年間の想定収入や想定発電量を公表していないが、事業費と稼働後の運転維持費を織り込むと、買取期間の20年で売電収入は100億円を超えるとみられる。
伊藤忠エネクスは2010年に電力小売事業を開始して以降、発電事業者を買収して供給力を拡大してきた。2011年に発電事業者のJENホールディングス(現・エネクス電力)を傘下に収めて、全国各地で風力発電所や水力発電所を運営している(図4)。石炭火力と天然ガス火力を加えた供給力は16万6000kWにのぼり、約3割を太陽光・風力・水力による再生可能エネルギーが占める。
上越市の水力発電所はJENホールディングスが2008年に日本曹達から取得した。当時の取得額は3カ所の水力発電所の設備を含む発電事業全体で2億1700万円だった。日本曹達は発電した電力を工場で消費するほかに、他社に売電して年間に1億円強の収入を得ていた。
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