翼が円柱、新原理で中小型風車を革新:蓄電・発電機器(4/4 ページ)
風車の翼の形は飛行機に似た形状を採る。このような常識を覆す風車「円柱翼風車」が登場した。開発したのは長岡技術科学大学の教授を務める高橋勉氏。中小型風車に向くという。特徴や用途を解説する。
マグナス風車とは異なる
翼に円柱を用いる風車は既に存在する。気流中で円筒を回転させると揚力が生じる現象、マグナス効果を利用したマグナス風車である。
岸本氏によれば、マグナス風車と今回の円柱翼風車は翼が円柱だということ以外、全く異なるのだという。
「マグナス風車は円柱が自転した時に発生するマグナス効果を駆動力として利用する。縦渦リニアドライブ円柱翼風車は、円柱と後流リングのすき間部に発生する『縦渦』を駆動力として利用する。そのため縦渦リニアドライブ円柱翼風車には必ず後流リングが存在する。さらにマグナス風車では必要な円柱の自転機構は必要ない」(同氏)。
翼は円柱形状であればよいため、一般的な風車とはことなり、風速によるピッチコントロールが必要ないことも有利に働く。
翼の素材としては発泡スチロールのようなものから超硬セラミックスのようなものまで使用可能だとした。「水平軸型、垂直軸型のどちらも風車として動作可能だ」(同氏)。
性能の限界は何で決まるのか
現在は原理を解明し、限られた条件下で風車としての性能を測定し始めた段階だ。
風車の性能を表す最大の指標はパワー係数。風から取り出すことができるパワーの割合を示す。風のもつ運動エネルギーの何%を動力として引き出すことができるかという値だ*4)。
パワー係数は風車の形状や翼の枚数、周速比によって変わる。周速比は、風車の翼の先端部の速さと風速の比。一般に風車の形状を固定し、周速比を変えていくと、ある比の値のとき、パワー係数が最大になる。
風車の性能を表すもう1つの指標がトルク係数。風車が風の流れを回転力として利用できた割合を示す値だ。
円柱翼風車は、風速と回転数に比例関係があり、リングと円柱のすき間を変えることで回転制御ができるという。トルクは円柱翼の数に比例して増加し、周速比に対するトルク係数はサボニウス型風車に類似するとした(図6)。つまり、周速比が高いとトルクが下がる。
*4) どのような形状の風車を使ってもパワー係数を0.6(60%)を超えて高めることはできない。これが理論限界だ。最高効率の風車の中にはパワー係数が0.5を超えるものもある。
研究から応用へ
高橋氏が新技術説明会で訴えたのは、原理の紹介と、研究開発体制だ。円柱翼風車の研究・開発において他のグループの協力を求めた。
現在の研究室では、円柱翼風車に携わるメンバーが3人と少なく、理論研究や試作、測定、数値シミュレーション、システム開発を全てこなすにはマンパワーが不足している。
「大型風車は最適化が進んでおり、システムとしてほぼ完成している。メーカーと協力することは難しいかもしれない。一方で、中小型風車では最適解が分かっておらず、円柱翼風車もここで生きると考える。現在は翼の研究を進めているため、次はシステムとしての研究、例えば円柱翼風車に適した発電機などで協力者を求めている」(岸本氏)。
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