噴気災害を起こした古い地熱発電所、設備を更新して2023年度に運転再開へ:自然エネルギー(2/2 ページ)
宮城県の内陸部で40年以上にわたって運転を続けている地熱発電所がある。2010年に噴気災害を起こして設備の一部が損壊した。地中から蒸気と熱水をくみ上げる生産井や地中に熱水を戻す還元井を含めて、発電所の設備を一新する。設備の更新後は2万5000世帯分の電力を供給できる見込みだ。
分散する生産井と還元井を基地に集約
地熱発電は再生可能エネルギーの中でも、とりわけ設備が大がかりになる。主な設備は発電所の本体に加えて、地中から蒸気と熱水をくみ上げる生産井、さらに発電後に熱水を地中に戻すための還元井の3つだ。鬼首地熱発電所には生産井が9カ所、還元井が8カ所にあり、その間を数100メートルに及ぶ蒸気と熱水の輸送管で結んでいる(図4)。
このように分散している設備を発電所の本体の周辺に集約することが更新作業の大きなポイントになる。新たに生産基地と還元基地を建設して、その敷地内で生産井と還元井を掘削する(図5)。最新の掘削技術が基地に集約することを可能にした。掘削工事は全体で約3年かかる予定だ。
並行して発電設備の建設工事を進める。鬼首地熱発電所では、地中から取り込んだ蒸気と熱水を分離して、そのうち蒸気だけを使って発電する「シングルフラッシュ方式」を採用している。更新計画を策定した当初は、分離後の熱水を使って蒸気量を増やす「ダブルフラッシュ方式」に変更する予定だった。発電能力を現在よりも引き上げるためだ。
しかしJパワーが2月7日に公表した環境影響評価の準備書を見ると、シングルフラッシュ方式に変わっている(図6)。発電能力も当初は最大23MWを想定していたが、現在と同様の15MWに変更した。環境影響評価の手続きを開始してから、技術面あるいは環境面の課題が生じたとみられる。
それでも15MWの地熱発電所を安定的に稼働できるメリットは大きい。地熱発電は天候の影響を受けずに年間を通して発電できるため、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は標準で70%に達する。
この標準値をもとに年間の発電量を計算すると9200万kWh(キロワット時)になる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2万5550世帯分に相当する。発電所が立地する大崎市の総世帯数(5万1000世帯)のちょうど半分をカバーできる。
鬼首地熱発電所は2017年度に現在の発電設備の運転を停止して、環境影響評価の手続きが完了する見通しの2019年度に建設工事を開始する予定だ。それから3年後の2022年度に試運転に入って、約1年後に営業運転へ移行する。
関連記事
- 環境影響評価を実施した初の地熱発電所、2019年の運転開始に向けて着工
1997年に施行した環境影響評価法によって、発電能力が10MW以上の地熱発電所には3段階の環境影響評価の手続きが義務づけられた。その手続きを完了した初めての地熱発電所の建設工事が秋田県内で始まった。発電能力は42MWに達して、国内で5番目に大きい地熱発電所になる。 - 国内初の地熱発電所を52年ぶりに更新へ、2種類の蒸気で出力2000kWアップ
運転開始から48年を経過した九州電力の地熱発電所で設備更新の計画が進んでいる。現在は地下からくみ上げた高圧の蒸気で発電する方式だが、新設備では同時に湧き出る熱水から低圧の蒸気を作り出して併用する。発電能力は2000kW、年間の発電量は4400世帯分も増える見込みだ。 - 大規模な地熱発電所を増やす、開発リスクを低減する掘削技術も
日本には世界で第3位の地熱資源量があるものの、発電に利用している割合は極めて少ない。地熱発電の拡大に向けて制度改革や規制緩和が進み、ようやく全国各地に開発プロジェクトが広がってきた。規模の大きな地熱発電所を低リスクで建設できるように、新しい掘削技術の開発も始まる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.