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火力発電の調整力を売買する「容量市場」、2020年度の開設に課題多く動き出す電力システム改革(83)(1/2 ページ)

2020年度に実施する発送電分離に向けて、発電事業者が保有する火力発電所の容量を市場で取引する検討が進んでいる。火力発電は需給調整に欠かせないことから、小売電気事業者が市場を通じて容量を確保しやすくなる。一方で電力会社を支援する狙いもあり、適正な運用には課題が残る。

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第82回:「CO2排出量ゼロの電力に高い価値、2017年度から新市場で取引開始」

 政府は2020年度までに4種類の新しい市場を創設する方針だ。その中で火力発電を主な対象にした「容量市場」を通じて、発電事業者と小売電気事業者が発電所の能力(容量)を売買できるようにする(図1)。


図1 電源の価値で取引する新市場の位置づけ。出典:資源エネルギー庁

 実際に発電した電力は電力量(kWh=キロワット時)をもとに通常の卸電力市場で取引する一方、将来に調達する電力の容量(kW=キロワット)をあらかじめ売買する場が容量市場である。容量を確保した小売電気事業者は必要な電力量を卸電力市場か契約相手の発電事業者から購入する仕組みだ(図2)。


図2 容量市場を通じた取引イメージ。出典:資源エネルギー庁

 このため小売電気事業者が調達する電力のコストは、容量市場を使わない場合と比べて高くなる可能性がある。長期にわたって容量を確保できる代わりに、調達コストが上昇するリスクを負うことになる。一方で火力発電所を運営する事業者は長期の安定収入を見込める。国内の火力発電所の大半を保有する電力会社が最大のメリットを受けるわけだ。

 政府が容量市場の検討に乗り出した背景に、再生可能エネルギーによる電力の増加がある。天候の影響を受けて発電量が変動する太陽光と風力の電力が拡大した結果、需要と供給を調整する火力発電の役割が高まった(図3)。特に発電量を細かく制御できる天然ガス火力発電の容量を十分に確保しておかないと、需給バランスの調整がむずかしくなってしまう。


図3 需要に応じた発電量の調整イメージ。出典:資源エネルギー庁

 ところが天然ガスの輸入価格は石炭よりも高く、発電量を増やすために必要なコスト(限界費用)が割高だ(図4)。卸電力市場でも価格が安い石炭火力の取引量が多くなり、天然ガス火力の需要は減り続けている。その結果、天然ガス火力の稼働率が低下して、発電事業者は設備投資を回収できない可能性が出てきた。


図4 電源による調整力と限界費用。出典:資源エネルギー庁

 政府はこうした状況が天然ガス火力発電所の新設や更新を妨げ、調整力として必要な容量を十分に確保できなくなる事態を懸念する。この問題を回避することが容量市場を創設する第1の目的だ。とはいえ天然ガス火力発電所の大半は電力会社が保有している。容量市場を通じて電力会社の発電事業の収入を下支えする狙いも見える。

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