原子力発電の廃棄物を最終処分する候補地、選定の要件と基準がまとまる:法制度・規制(3/3 ページ)
原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
調査の完了時期は早くても2040年
全国を対象に適性を示すマップを作成した後に、調査を受け入れる自治体の選定に入る。3段階の調査は文献に基づく広域の調査から開始して、次に調査の範囲を狭めてボーリング調査などを実施する(図10)。最後の第3段階では地層処分施設の建設に必要な数キロメートル程度の範囲に絞って、地下に調査施設を用意して測定や試験を長期にわたって継続する予定だ。
調査を実施するNUMOは各段階の結果がまとまった時点で公開する。その結果をもとに該当する地域の知事や市町村長の意見を聞いたうえで、経済産業大臣が承認するプロセスになっている(図11)。大規模な発電所を建設する時に必要な環境アセスメントの手続きと同様だ。
3段階の調査を完了するまでの期間は20年以上を想定しているため、早くても2040年くらいになる。その後に建設に向けた安全審査を経て工事に着手できる。2013年に着工したフィンランドのケースでは工事期間を7年と見込んで、2020年に操業を開始する計画だ。日本で同程度の工事期間を想定しても、操業開始は2050年代に入ってからだろう。
これから着手する候補地の選定が難航することは十分に予想できる。NUMOは10年以上前にも調査の実施地域を募集したことがあり、2006年に高知県の東洋町が第1段階の文献調査に応募した。国から交付金を受けて町の財源を確保できることが理由だ。ところが町民の反発が強く、翌年になって応募を取り下げている。
NUMOによると、調査に協力することで自治体には多額の収入と経済効果がもたらされる(図12)。第1段階の文献調査だけで国から年間に5億円以上の交付金が入り、第2段階の概要調査では交付金が2倍に増える。その後の交付金は未定だが、さらに金額が増えることは確実だ。
実際に地層処分施設を建設・操業した場合には、固定資産税だけで年間に約29億円を見込める。さまざまな経済効果を合わせると年間に500億円以上になり、約2800人の雇用をもたらすと推定している。人口の流出や産業の縮小に悩む地方の自治体には大きな魅力がある。
現在でも原子力発電所の再稼働を自治体が支援するケースは多く見られる。再稼働による経済効果を期待する住民は少なくない。原子力発電所から高レベル放射性廃棄物が大量に発生するリスクよりも、地域の活性化を優先させる判断が働いている。自治体や住民が当面の利益を重視する姿勢は安易に批判できない。
とはいえ長年にわたって増え続けている高レベル放射性廃棄物の地層処分には相当の時間とコストをかけて取り組まなくてはならない。それにもかかわらず今なお原子力発電所を再稼働させて、使用済み核燃料を増やし続けることは正しい判断なのか。
政府と電力会社こそ短期的な利益にこだわることなく、地層処分が必要な高レベル放射性廃棄物の増加を抑える決断を下すべきだ。重大なリスクを負うのは将来の世代であり、そのリスクを払しょくするまでに何万年もかかる事実から目をそらすわけにはいかない。
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