100℃以下の温泉水で地熱発電、温泉の町がCO2フリーの電力を地産地消:自然エネルギー(2/2 ページ)
火山地帯の北海道・洞爺湖町で地熱発電が始まった。温泉組合と町が事業者になって、100℃以下の温泉水を利用できるバイナリー方式の発電設備を稼働させた。CO2を排出しない電力を生み出して、周辺のホテルや旅館まで温泉水を配湯する。環境を重視する温泉町の魅力で観光客を増やす狙いだ。
町の人口と観光客の減少を食い止める
洞爺湖町で導入したバイナリー発電システムは70〜95℃の温水を使って発電できる(図5)。通常の地熱発電では100℃以上の蒸気を取り込んでタービンを回転させる方式だが、バイナリー発電は100℃以下の低温でも蒸発する沸点の低い媒体を利用する。神戸製鋼所のシステムはオゾン破壊係数がゼロのフルオロカーボン(HFC245fa、沸点15℃)を媒体に使って環境負荷を低減している。
温泉組合と町が地熱発電に取り組む背景には、長年にわたって町が抱えてきた深刻な問題があった。町に隣接する有珠山が1977年と2000年に噴火して、町内の住宅や温泉街にまで噴石が飛び散り、一時は立ち入りができないほどの甚大な被害を受けた。観光客は激減、地域の農業にも影響が出た。人口の減少にも歯止めがかからない。
町の活性化に向けた取り組みの中で、大きな契機になったのが「洞爺湖有珠山ジオパーク」の誕生だ(図6)。2009年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が認定する「世界ジオパーク」に日本で初めて登録されて以降、国内と海外から観光客が増え始めた。
ただし課題として残ったのが電力の問題である。温泉組合では源泉から取り込んだ温泉水をホテルや旅館に供給するために、ヒートポンプを使って温泉水を沸かしてから配湯する必要がある。寒冷地の温泉街ならではの対策だが、大量の電力を使うために電気代がかさんでしまう。
しかも電力の消費に伴ってCO2(二酸化炭素)を排出することになる。北海道電力はCO2排出量の多い石油火力に依存する割合が大きく、全国の電力会社の中でもCO2排出係数(電力1kWhあたりのCO2排出量)が高い。世界ジオパークの認定地では自然環境を重視した街づくりが求められる。温泉水を加温するために大量のCO2を排出する状況を変える必要があった。
豊富にある地熱資源を生かして電力の安定供給と温暖化対策を図るため、2014年度から国の地域再生計画の認定を受けて「洞爺湖温泉『宝の山』プロジェクト〜地熱エネルギー利用による環境・観光活性化〜」の取り組みを開始した。地熱発電によるCO2フリーの電力を地産地消して、環境を重視する温泉の町としてアピールする狙いだ。今後は学生を対象にした環境教育にも地熱発電施設を利用していく。
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