紙のようにロール印刷、ペロブスカイト太陽電池:蓄電・発電機器(3/3 ページ)
太陽電池の製造コストを劇的に抑える手法の1つがロールツーロール法だ。印刷物と同様、ロール状のシートを巻き取りながら発電に必要な層を印刷していく。オランダSollianceは分速5メートルでペロブスカイト太陽電池の製造に成功。変換効率は12.6%である。
Ronn Andriessen氏との一問一答
今回の成果について、SollianceのAndriessen氏に聞いた。
スマートジャパン 開発した太陽電池の層構造を教えてください。図2に挙げた構造のそれぞれの層にはどのような材料を用いましたか。
Andriessen氏 裏面電極には金、正孔輸送層にはSpiro-OMeTAD、光吸収層にFACsPblxBry*5)、電子輸送層に酸化スズ(SnOx)を使っています。
*5) Spiro-OMeTADはベンゼン環を12個含む有機半導体物質。FACsPblxBryは炭素、窒素、水素からなるホルムアミジニウム(FA):HC(NH2)2と、セシウム(Cs)、鉛(Pb)、ヨウ素(I)、臭素(Br)が結合した物質
スマートジャパン 製造時のロールの長さはどの程度ですか。ロールの全長にわたって均一に印刷したのでしょうか。
Andriessen氏 幅30cm、長さ500mのロールを用い、スロットダイコーティング法*6)を適用して、光吸収層と電子輸送層を順に印刷しました。
その際、10mごとにコーティングの設定を変えました。電子輸送層と光吸収層の塗布についてそれぞれ最適解を見付けるためです。こうして、10m長の試作品50本を得、印刷した材料の結晶がどのような状態にあるのか、まず顕微鏡で検査しました。
結晶形態(crystal morphology)が最も良いと思われた2本を選び出した後、ランダムに位置を選んで残りの層を形成、面積0.1cm2のセルを20個作りました。
1本目のシートから作成したセルの変換効率は平均9%、2本目は平均12%。そのうち1つが12.6%でした。
*6) スロットダイコーティング法は、液晶パネルやリチウムイオン蓄電池の製造に用いられる一般的な手法。液状の材料を一直線状の細いすき間(ヘッド)から押し出すスロットダイという部品を用いる。スロットダイと円形のロールの間にシートフィルムを通して、フィルム上に材料を均一に塗ることができる。
スマートジャパン 発表資料には電子輸送層と光吸収層をロールツーロール法で作成したとあります。それ以外の層はどのように形成したのでしょうか。
Andriessen氏 光吸収層まで作り込んだ500mのシートを切断し、シートツーシート(S2S)法で正孔輸送層を形成しました。金電極には蒸着を利用しています。
新しい製造手法を開発
スマートジャパン 発表資料には、個別デバイス向けにオフラインで最終ステップを実行する手法を開発したとあります。これはセルをパターニングする手法のことでしょうか。
Andriessen氏 詳細はお話できません。パターニングが施されていないPET/ITOシートを利用した上で、適切なコンタクトを可能にし、アクティブ領域を定義できる技術です。
スマートジャパン 2016年5月の発表では今後「sALD」技術を適用していくとしていました。今回、sALD技術を利用していますか(関連記事)。
Andriessen氏 今回は利用していません。酸化スズとFACsPbIxBryを組み合わせることで、良好な結果を得ているためです。しかし、PET/ITOフィルム上でsALD技術を利用し、先ほどの回答で触れた最終ステップを適用した太陽電池モジュールもロールツーロール法で試作しています。この試作品の変換効率は現時点ではあまりよくありません。FACsPbIxBry以外のペロブスカイト層の形成に難点があります。
【更新履歴】 記事公開後、Ronn Andriessen氏から質問に対する回答が寄せられたため、「*5) 正孔輸送層と裏面電極の製造手法についてSollianceに問い合わせたところ、回答はなかった」という注を削除し、3ぺージ目を追加しました(2017年4月3日)。
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