原子とロールで作る「ペロブスカイト太陽電池」:太陽光(4/4 ページ)
急速に変換効率を伸ばしているペロブスカイト太陽電池。安価な材料を用いた薄膜太陽電池として期待されている。オランダSollianceは、量産に欠かせない太陽電池のモジュール化技術を開発。変換効率を維持しながら、モジュール面積を拡大した。開発ポイントは製造プロセスにあった。
原子で寿命を長くする
今回試作したモジュールのうち、セル部分の層構造を図4に示す*8)。利用した各種材料や層構造は、他の研究チームのものとほとんど変わらない。一般にガラス基板を除くペロブスカイト太陽電池セルの厚みは、2マイクロメートル程度。
透明電極を形成したガラス基板上に光吸収層(図中で茶色の部分)を塗り、裏面電極を接触させるだけでもペロブスカイト太陽電池として機能する。二酸化チタンやspiro-OMeTADは電子や正孔の移動を助けて変換効率を高める働きがある。
*8) 成膜手法は以下の通り。表面透明電極(スパッタ)、電子輸送層(ビームPVD)、光吸収層(ダイ塗布)、正孔輸送層(ダイ塗布)、裏面電極(蒸着)。
問題はこのspiro-OMeTADにあるという。他の層とは異なり、この物質は純粋な有機物(組成式:C81H68N4O8)だ。さらに表面電極を除けば最外層に位置する。つまり、大気成分などのさまざまな浸透を受けて劣化しやすい。
Andriessen氏の研究開発チームは、今後、製造プロセスの一部に空間的原子層堆積法(sALD:spatial Atomic Layer Deposition)を導入することで、ペロブスカイト太陽電池モジュールの寿命を延ばす計画だ*9)。シートツーシート方式の製造が可能になるsALD装置を用いるという。
Andriessen氏は、空間的原子層堆積法を導入すれば、spiro-OMeTADではなく、より耐久性の高い無機物、例えば酸化ニッケル層を高速、常圧下で形成できると指摘した。前段階としてsALDを用いた二酸化チタン層の形成に成功したという。
2016年6月10日から同14日まで、英国スコットランドのインバネスで開催される「5th International Symposium on Energy Challenges&Mechanics」において、空間的原子層堆積法を適用した各種の結果について発表する予定だ*10)。
*9) sALDは常圧下で高速・連続した成膜が可能な手法。ALDの発展形。ALDでは真空チャンバー中にプリカーサー(前駆体)となる分子ガスを導入することから始まる。チャンバー内では基板が加熱されており、基板上に前駆体が物理吸着すると、前駆体が熱分解し、前駆体から単層の原子膜が得られる。その後、不要な分子を排気する。これを薄膜材料の種類ごとに繰り返すことで、基板上に1層の分子からなる膜を形成できる。sALDでは連続して送られていくフィルム(ロール)から数十μm離れた位置にプリカーサー放出部と排気部が順番にならんだ小型のヘッドを置く。プリカーサーを連続的に放出できるため、連続生産が可能になる。回転する円形ヘッドの上に、ロールをU字状に流すといったレイアウトを採ることで、複数層も形成できる。
*10) Sollianceは大型ガラス基板へのシートツーシート成膜を目的として、2015年の夏季にsALD装置の部材を搬入開始した。2015年10月には組み立てと改良を終え、ソフトウェア開発と導入を開始。装置の試運転を開始し、高効率CIGSモジュールの試作に用いた。
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