東京電力の新々事業計画、2020年代の自立を目指すも道険し:電力供給サービス(4/4 ページ)
東京電力グループは2017年度から「新々総合特別事業計画」のもと、福島事業・経済事業・原子力事業の3本柱で変革を進めていく。国の改革案に沿って火力発電・送配電・原子力事業を他社と統合して競争力を高める方針だ。国有化の状態から脱却するために年間5000億円の利益創出を目指す。
送配電コストを世界水準まで引き下げる
2020年4月に分離する送配電事業ではコスト削減が最大の課題になる。業務改善による効率化やグローバルな調達を推進して、送配電事業のコストを2018年度までに500億円以上の規模(2016年度比)で削減する計画だ。さらに2025年度までに削減額を1500億円程度に拡大してグループの収益力を強化する。
東京電力パワーグリッドの送配電コストは2015年の時点では4.89円/kWh(キロワット時)で、国内の電力会社10社の中で平均的な水準にある(図12)。2025年度に1500億円程度のコスト削減を実現できると、国内はもとより欧米の事業者と同等の4円/kWhまで下がる。
世界水準の送配電コストを競争力に、他の電力会社の送配電事業と統合を進めることが今後の基本戦略だ。2020年代の初めに複数の地域をまたがる共同事業体を設立して、送配電事業の再編・統合を通じて収益基盤の拡大を目指す。火力発電と同様に海外にも事業を展開する計画で、海外の送配電事業者の買収を検討する。
グローバルな送配電事業に向けて新たな提携にも乗り出す。第1弾では送配電ネットワークの監視制御システムを輸出する事業を想定して、IoT分野のセキュリティ会社で大手の米マカフィをはじめ、東芝やNTTデータなどを加えた広範囲の提携を検討中だ。各社の技術・ノウハウや人材を活用して、競争力の高いシステムの提供とコンサルティング事業を展開していく。
収益源の火力発電と送配電事業をグローバルに展開して利益を増やすことができれば、国有化の状態から脱却することも可能になる。国が策定した東京電力グループの改革案では、福島第一原子力発電所の事故に伴う賠償や廃炉を担う「福島事業」には国が長期に関与して事故の収束と復興にあたる(図13)。
その一方で発電・送配電・小売を中心とする「経済事業」は早期に収益を拡大して、国からの自立を目指す。2年後の2019年度に改革の進捗を評価したうえで、国の関与を必要としない自立の可能性を検討する予定だ。2020年4月に実施する発送電分離までに新しいグループ体制を構築する必要があり、その時点で国が保有する株式をどのくらいまで減らせるかが焦点になる。
福島第一原子力発電所の廃炉・賠償・除染には巨額の費用が見込まれている。政府が想定している規模は総額で22兆円だが、今後さらに拡大する可能性もある。22兆円のうち16兆円を東京電力グループが負担したうえで、他の電力会社が4兆円、新電力が2400億円、残り2兆円を国が負担する(図14)。廃炉を完了するまでに40年かかることを前提に割り当てた金額だ。
東京電力グループの収益拡大は事故の収束に不可欠で、新々総特に盛り込む収支計画は必ず達成しなくてはならない。とはいえ懸案の「原子力事業」は先行きが見通せない状態にある。福島の復興を着実に成し遂げるためにも、原子力発電所の再稼働を織り込まない確実性の高い事業計画を策定する必要があるのではないだろうか。
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