企業が再生エネを活用しやすい設計を、自然エネルギー財団が企業10社と「非化石市場」に提言:自然エネルギー
CO2を排出しない原子力や再生可能エネルギーの「非化石価値」を取り引きできる、「非化石価値取引市場」の創設が予定されている。自然エネルギー財団はAppleや富士通、ソニー、Microsoftなど企業10社の賛同を得て、この新市場の制度設計に対する提案をとりまとめた。
自然エネルギー財団は企業10社と共同で、日本国内における自然エネルギーの利用拡大に向けて、2017年度内の創設が見込まれている「非化石価値取引市場」の有効性を高めるための提案をとりまとめた。企業の再生可能エネルギーの活用を促すための環境整備に向けたもので、以下の3点で構成される。
- 電力消費者が自然エネルギー電力の利用を宣言できるようにすること
- 非化石電源の中で、自然エネルギー電力と原子力発電を区分すること
- 自然エネルギーの中でも、太陽光、風力、小規模水力、バイオマスなどの区分が明らかになるようにすること
提案にはApple、富士通、イビデン、イケア・ジャパン、Microsoft、パタゴニア日本支社、リコー、清水建設、ソフトバンクグループ、ソニーの10社の賛同を得た。
日本政府は2030年のCO2排出量を2013年比で26%削減する目標を掲げている。その達成に向けて、そのためにCO2を排出しない非化石電源(原子力+再生可能エネルギー+大型水力)の比率を44%以上に高める方針である。エネルギー供給構造高度化法に基づいて、小売電気事業者には2030年に販売する電力の44%以上を非化石電源にすることが求められている。
しかし、現在の電力市場の制度では、発電事業者と小売電気事業者が相対取引を行う場合には非化石価値が認められるものの、卸電力取引所において非化石電源と火力発電の電力は同様に取り引きされている状況だ。そこで、非化石電源の「価値」を小売電気事業者が調達可能な非化石価値取引市場を創設し、2030年に44%という目標達成が難しい事業者も市場で「非化石」という価値を買い取ることで目標を達成できる環境を整備する。
非化石価値取引市場ではCO2を排出しない原子力、再生可能エネルギーに由来する電力に証書を発行して「非化石価値」を与え、卸電力取引所の中で売買できるようにする仕組みだ。非化石電源の価値を購入できるようにし、再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)による国民の賦課金負担の軽減を図るという狙いもある。
非化石価値取引市場において発行する証書は、「再生可能エネルギー由来のもの(FIT含む)」もしくは「指定なし」の2種類から選択出来るようになる予定だ。ただ、原子力由来の電力であることや、太陽光や風力などの電源種別は、はっきりと区分されない仕組みになっている。
今回の自然エネルギー財団の提言は、こうした状況の制度設計に対するものだ。「自然エネルギー由来の非化石証書を購入した小売電気事業者が、どのような形で自然エネルギー電力を販売していると表示できるのか、その電力を調達した電力消費者が自然エネルギーの利用を宣言できるのか、明確になっていない」と指摘する。
一方で、グローバルに企業の再生可能エネルギー活用が加速しており、日本企業も追従する動きが進みはじめた。例えば、事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する国際的なイニシアチブ「RE100」がある。Apple、IKEA、Microsoft、Google、スターバックスなど、世界で約90社が参画しており、各社独自の目標を定め、再生可能エネルギーの利用率100%に向けた取り組みを進めている。既に100%近い達成率を実現する企業も出てきている。
これまでRE100に日本企業は参画していなかったが、2017年4月21日にリコーが初めて参加を表明。同時に2050年までに再生可能エネルギー100%を目指すという意欲的な環境目標を発表した。さらに最近ではApple向けの部材製造を手掛ける日本企業のイビデンが、Apple製品用の部材製造に再生可能エネルギーに由来する電力だけを用いることを発表した。
とはいえ日本企業の再生可能エネルギー活用状況は、“先進的”とはいえない状況にある。自然エネルギー財団は提言書の中でその背景として、「日本の再生可能エネルギーの電力コストが世界標準と比較してまだ高いこと」「企業が自然エネルギーに投資し、活用していることを明確にできる制度の整備が不十分であること」という大きな2つの理由を指摘し、「日本の企業が、自然エネルギー導入に関心が薄いためではない」と述べる。
今回の提案はこうした背景から「『非化石価値取引市場』が再生可能エネルギーの環境価値を明確化し、企業での利用を促進する上で有効なものとなるよう行うもの」としている。今後の日本のエネルギー市場において非化石価値取引市場は大きな役割を担う。その中で再生可能エネルギーの価値を明確にする制度設計とすれば、活用を進めたい企業も投資がしやすくなるという考えだ。ひいては再生可能エネルギーの普及にもつながる。今後自然エネルギー財団は、企業が自然エネルギーを活用していくために必要な課題について、企業や関係省庁との対話と提案を進めていくとしている。
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