アジアでなぜ“国際送電網”は普及しないのか、最大の課題は「国家としての意思」:自然エネルギー(2/2 ページ)
自然エネルギー財団は、日本での国際電力網連系実現に向けて検討した「アジア国際送電網研究会 中間報告書」を公表した。現在の日本、アジアにとって必要不可欠ではないだろうかと、国際送電網の可能性を提言。基本的な考え方をはじめ、各国の取り組みを紹介している。
国際連系が一般的となった欧州
欧州は以前から国際連系が一般的となっていた。欧州には陸続きの先進国が多いため、相対的に国際連系線の距離や費用を抑えられるうえ、市場がある程度大きい国が隣り合っているため、地理的に好条件がそろっていたからだ。第二次世界大戦以降は外交関係が安定し、欧州委員会が域内の市場統合を推進してきたことも大きいという。
1990年代後半からは電力自由化の進展、自然エネルギーの導入拡大、送電関連の技術進歩により、大幅に取引量が増えている(図2)。2017年3月時点で世界最長の海底送電ケーブルはノルウェーとオランダをつなぐ「NorNed」で、全長は580kmに及ぶ。これより長い国際連系線の計画も進んでおり、自然エネルギー財団は「国際連系線を含む送電事業は、欧州では安定的に利益を生み出す成長産業となっている」とコメントする。
中間報告書の第2章「欧州における国際送電網の現状と課題」ではその他、欧州における歴史的背景や運用方法、投資形態、各国の事例などがまとめられている。第3章では、北東アジアの国際送電網の現状や可能性について紹介されている。
日本の最大の課題は「国家としての意思」
第4章「日本における国際送電網の可能性と今後の検討課題」によると、国内では島国という地理的要因、電力システムの地域独占体制が続いていたこと、自然エネルギーの拡大が遅れたことから国際送電網の必要性が論じられてこなかったとする。
「電力システムに関する改革方針」が閣議決定し、電力小売自由化の開始、2020年までの発送電分離など、電力システム改革が進んでいる。地域間連系線の活用に関する議論も活発化し、自然エネルギー財団では「国際送電網を実現する環境が整いつつある」と指摘する。
中間報告書では今後国際連系に取り組むにあたり必要とされる電力システム改革に関する提案、法制度上の検討事項が紹介されている(図3)。国際連系線の所有、運用における関係国間の合意、国内送電網への接続に関する協力関係構築などを挙げた。
「日本が具体的な国際送電網プロジェクトを開始する上での最大の課題は、国家としての意思にある。国際送電の実現が政府の確固たる意思となり、他国政府との公式な議論が始まることがプロジェクトの実現に必要である」(自然エネルギー財団)
なお中間報告書は自然エネルギー財団のWebサイトから閲覧できる。2017年5月17日には、虎ノ門ヒルズ森タワーで中間報告書に関するシンポジウムが開催される予定だ。
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