従来比2倍のエネルギー密度へ、リチウム硫黄電池の正極を新開発:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
大阪府立大学の辰巳砂昌弘氏らはリチウム硫黄二次電池の実現に向けて、硫化リチウムベースの固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極を開発し、容量と寿命の飛躍的な向上に成功した。
作製した固溶体の特性評価
図2はそれぞれの試料のX線解析(XRD)パターン、格子定数、イオン伝導度の組成依存性を示している。XRDパターンではLi2Sに帰属されるピークのみが観察されており、ハロゲン化リチウムのピークが消失していることが分かったという。
(100−x)Li2S・xLiIにおいて、x=25の組成ではLiIのピークが観察されており、x≦20組成領域でLi2Sベース固溶体の生成を確認。作製した試料の格子定数は、ハロゲン化リチウムの置換に伴って連続的に変化していることから、Li2Sを母相とする固溶体が生成していると考えられる。またハロゲン化物アニオンの導入で、Li2S自身のイオン伝導度は最大2桁以上増大し、室温で10−6Scm−1以上のイオン伝導度を示している。
充放電特性は、高い伝導度を示したLi2S-LiCl、Li2S-LiBr、Li2S-LiI固溶体と、固体電解質を組み合わせた正極を全固体電池へ適用して調べたという。その結果、Li2S-LiI固溶体の可逆容量が最も大きく、容量はLi2S単体よりも2倍以上となっており、Li2Sの理論容量と同等の容量で作動することが分かった。
Li2S-LiI固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極の長期繰り返し充放電試験の結果が図3となる。これまで報告されているLi2S正極は、1000〜1500サイクル後に初期容量の30〜60%しか維持していなく、徐々に劣化していることが分かる。今回発表した正極は2000サイクル間で容量劣化せず、飛躍的に寿命が向上することを明らかにした。
今後は正極層の厚膜化、軽量化を目的とした固体電解質層の薄膜作製、高エネルギー密度の負極材料の開発を進める。これらを組み合わせて、リチウムイオン電池よりも2倍のエネルギー密度を有する全固体リチウム硫黄二次電池の構築を目指すとした。
関連記事
- リチウムイオン電池寿命を12倍に、正極加工に新手法
安永はリチウムイオン電池の寿命を大幅に向上する技術を開発した。正極に微細な加工を施すことで、活物質の剥離を抑制力を高めるというもので、充放電サイクル試験では同社製品比で寿命を約12倍にまで向上させられたという。 - 硫黄で作る革新リチウム電池、安定した充放電サイクルを達成
次世代電池の1つとして期待されている「リチウム硫黄電池」。実用化に向けては、正極の放電反応により生成される多硫化物による性能の低下が課題となっている。産総研の周豪慎氏らの研究グループは、電池のセパレーターに「イオンふるい」の機能を持つ複合金属有機構造体膜を用い、安定した充放電サイクル特性を持つリチウム硫黄電池の開発に成功した。 - 性能はリチウムイオン電池の6倍、マグネシウム“硫黄”二次電池を開発
山口大学 大学院理工学研究科の研究チームは、理論上、現在利用されているリチウムイオン電池の約6倍の電気容量を持つマグネシウム電池を開発した。電気自動車の走行距離拡大などへの貢献が期待できるという。 - 安全で長寿命な「全固体リチウムイオン二次電池」が実現か、MITなどが開発
マサチューセッツ工科大学とサムスングループは、全固体リチウムイオン二次電池を実現する「固体電解質材料」を開発したと発表した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.