船の上で太陽光発電、“発電する帆”で環境負荷を下げる:自然エネルギー
船の上で太陽光や風力から電力を作り、航行のエネルギーに利用することで環境負荷を低減するというユニークな取り組みが進んでいる。船舶用システムなどを手がけるエコマリンパワーが久福汽船と進めているプロジェクトで、実際の船舶に太陽光発電システムを組み込んだ特殊な帆などを設置し、発電した電力を運航に活用して環境負荷の低減を目指す。
エコマリンパワー(EMP、福岡市)は久福汽船(広島県尾道市)と協力し、船舶用再生可能エネルギーソリューション「AquariusMRE」の導入に向け、久福汽船の船舶を利用した海上試運転の準備を開始したと発表した。EMPが開発した太陽光パネルを組み込んだ帆などを利用し、船上で発電した電力を船の運航に利用することで、環境負荷の低減を目指す。
AquariusMREの中核となるのが、太陽光パネルや風力発電装置などの発電装置を取り付けることができる特殊な硬帆だ。EMPはこの硬帆「EnergySail」について、2016年10月に特許を取得している。各種センサーの取り付けや、コンピュータによる自動制御も可能で、大型のケープサイズばら積み鉱石運搬船から、海軍や海上警備隊の巡視船まで、さまざまな船舶に搭載できるという。船が停泊中や寄港時でも使用可能だ。製造は船舶用品製造の実績を持つ寺本鉄工所(尾道市)が行っている。
久福汽船の船舶に設置するAquariusMREは、EnergySailの他、蓄電池、船舶用コンピュータなどから成るシステムで、船上で発電した再生可能エネルギーの電力を船舶の運航に利用することで、使用燃料の削減や、環境負荷の低減を図る。一般的な、平置きの太陽光発電システムも設置する。AquariusMREを実際の船舶に搭載するのは、今回が初になる。
現在両社はBelgrano船、Nord Gemini船、Bulk Chile船を含む数隻の大型ばら積み貨物船に関するフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を実施中だ。EnergySail配列によって得られる推進力の推定値を各船舶の運航経路から算出し、各船舶に設置可能な太陽光発電システムの総量を決定する。必要に応じて船上試験やデータ収集も行う。
フィージビリティスタディ完了後、1隻の船を海上試運転フェーズ用として選び、AquariusMREのシステムを構築する。約12〜18カ月間にわたって、海上で試運転を行い、システムの検証・評価を行う計画だ。
なお、今回のプロジェクトには、古河電池(横浜市)、ケーイーアイシステム(大阪市)なども戦略的パートナーとして参画している。EMP社はプロジェクトへの投資について潜在的投資家を含む数社と協議をしているとした。
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