燃料電池の高性能化に道、非フッ素系電解質膜の開発に成功:蓄電・発電機器
山梨大学は、これまで難しいとされていた固体高分子形燃料電池(PEFC)用の非フッ素系電解質膜の開発に成功。電池の高効率化および耐久性の向上に大きく貢献する成果だという。
山梨大学は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業で、固体高分子形燃料電池向けの、高性能な非フッ素系電解質膜の開発に成功したと発表した。燃料電池の高効率化および耐久性の向上に大きく寄与する成果だという。
水素社会の実現に向け、2014年に経済産業省が策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、燃料電池自動車(FCV)の普及拡大のために燃料電池システムのコストを大幅に低減し、「2030年までに80万台程度の普及を目指す」という目標を掲げた。NEDOは、2025年以降の本格普及期に求められるFCV用燃料電池の要求値(スタック出力密度4kW/L以上、耐久性5万時間以上など)を設定し、2015年度から新規材料の設計指針に資する技術の開発を目的とした事業を実施している。
燃料電池は、水素と空気中の酸素(供給ガス)を触媒上で反応させて、水を生成する際に発生するエネルギーを電力に変換するシステム。近年、エネルギー変換効率が高く、低公害な発電装置である燃料電池は、エネルギーや環境問題解決の観点から注目を集めている。このうち固体高分子形燃料電池(PEFC)は、家庭用燃料電池(エネファーム)やFCV用として既に実用化されている。PEFCで用いられる電解質膜には、主にフッ素系電解質膜が広く利用されているが、供給ガス透過性、環境適合性、コストなどが課題となっている。一方で、これらの課題を克服できる新たな電解質膜として、構成元素にフッ素を含まない炭化水素系電解質膜の可能性が検討されてきたが、成膜性、化学耐久性、機械特性(特に柔軟性)に課題があり、これまで燃料電池への応用は困難だと考えられてきた。
今回、山梨大学の研究グループは、高性能な非フッ素系電解質膜の開発に成功。具体的には、耐久性に優れる炭化水素系高分子であるポリフェニレン(主鎖がベンゼン環のみから成る芳香族系高分子)構造に着目し、分子レベルで組成比を最適化することにより新たなポリフェニレン電解質(SPP-QP)を合成。検証の結果、透明かつ柔軟な薄膜を形成し、化学耐久性にも優れるということが分かった。
化学耐久性はフェントン試験(酸化安定性を評価する手法)を実施し、従来開発していた炭化水素系電解質膜と比較して、酸化に対して非常に安定であることを示したという。また、SPP-QP電解質膜を燃料電池に搭載した場合の初期発電特性は、現行のフッ素系電解質膜と比較して同等であることが確認されたとする。
今回の成果で、PEFCの作動条件下でも高い性能を発揮できる非フッ素系電解質膜の分子設計指針が見いだされたことになり、今後、この設計指針をさらに発展させていくことで、2025年以降のFCVの本格普及に向けた課題解決や、エネファームのさらなる導入拡大に貢献することが期待されるとしている。
関連記事
- 低コスト燃料電池を実現、白金を使わない新触媒が実用化
日清紡ホールディングスは白金を使わない燃料電池用触媒の実用化に成功。カーボンを主原料とする触媒で、カナダの燃料電池メーカーが開発する固体高分子形燃料電池の電極に採用が決まった。 - リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは
電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。 - 太陽光の利用効率を2倍に、実用的な人工光合成につながる成果
九州大学の研究グループが、これまで利用できなかった近赤外光を利用して、水から水素を発生させることに成功。実用可能な人工光合成システムへの応用が期待される成果だという。 - “究極”の空気電池、実用化へ「最大のボトルネック」を突破する新電解液
高容量かつ安価な“究極の二次電池”として実用化への期待がかかるリチウムイオン空気電池。物質・材料研究機構の研究チームは、リチウム空気電池の課題である、エネルギー効率と寿命を同時に改善できる新しい電解液の開発に成功した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.