電力価格でエネルギー消費を制御する技術、不安定さの謎を解明:エネルギー管理
電力価格を調節することで電力消費の抑制・促進を行う「リアルタイムプライシング」。このほど、名古屋大学と岡山県立大学の研究チームがこのシステムの弱点とされていた“不安定さ”を解決する条件を解明。スマートグリッドの構築に必要な技術とされるリアルタイムプライシングの実現に貢献する成果だという。
名古屋大学と岡山県立大学の研究チームは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業で、電力のリアルタイムプライシングの安定性を保証する設計条件を解明したと発表した。世界初の成果という。
従来の電力システムでは、電力の消費量に合わせるように電力供給(発電)を制御してきた。一方、ピークカットのために、また、発電量の調節が容易ではない再生可能エネルギーの大量導入に向けて、電力消費の方も制御することが望まれている。リアルタイムプライシングは、電力価格を調節することで電力消費の抑制・促進を促す方法を意味する。スマートグリッドの実現における中核的技術の1つと位置付けられている。
リアルタイムプライシングは、電力消費量から電力価格を定め、その価格に応じて電力消費量が変化するという、「電力消費量」と「電力価格」の間の相互的な作用が軸となる。このような相互作用は、制御工学ではフィードバック構造と呼ばれるが、フィードバック構造を構成すると、常に不安定化という悪循環に陥る可能性が生じる。この不安定化により、スマートメータからの情報を価格決定に適切に反映できなかった場合には、電力の需給バランスが崩れ、停電を引き起こす可能性がある。これがリアルタイムプライシングの課題だ。
今回の研究グループは、フィードバック制御理論に基づいて、リアルタイムプライシングの安定性を保証するための設計条件を解明した。主な成果は以下の通りだ。
独自のリアルタイムプライシングのモデルの提案
リアルタイムプライシングでは、空間的に分散している需要家の電力消費量をスマートメータによって測定し、それを収集して情報処理し、電力消費量の総量の情報を得る必要がある。しかし、需要家の数は一般に膨大であるため、スマートメータの情報を局所的なアクセスポイントに集め、ポイント間で情報交換を行いながら電力消費量の総量計算を実施することが考えられる。今回の研究では、このようなアクセスポイント間で実施する分散型の情報処理方法として、時々刻々と変化する消費量にも対応できるダイナミックコンセンサスアルゴリズムを採用することを提案した。
また、電力価格の決定方法として、電力消費量の総量の「現在の値」と「過去の値」をある割合で足し合わせて行うことを提案している。この方法は、比例積分型制御を応用したもので、同研究でのリアルタイムプライシングでは、ダイナミックコンセンサスアルゴリズムによって、アクセスポイントに分散している情報から電力消費量の総量を推定し、その推定情報の現在値と過去の履歴を用いて、電力価格を決定する。
安定性を保証する設計条件の解明
これらのようにモデル化されたリアルタイムプライシングは、多数のシステムが複雑に接続されており、どのパラメーターがシステム全体の安定性に影響を及ぼすのかが明らかではなかった。同研究では、システム全体から安定性に影響を及ぼすブロックを抽出する相似変換を考案し、リアルタイムプライシングの安定性が、アクセスポイント間の情報の交換経路(ネットワーク構造)、アクセスポイントに分散している情報を統合し、電力消費量の総量の情報が得られるまでの速度(コンセンサスゲイン)、情報の電力価格への反映度合い(制御ゲイン)という、主に3つのパラメーターの関係によって定まることを発見した。
さらに、リアルタイムプライシングの安定性を保証する3つのパラメーターの範囲を表現する不等式を導出している。この不等式は、制御工学の分野で知られている、システムが安定か否かの規範となる固有値と呼ばれる数値が安定領域に存在することを表しており、これを満足するように3つのパラメーターを選択(設計)すれば、安定性が保証されたリアルタイムプライシングを実現することが可能だという。
今回の研究で得られた条件は、不等式で表現されておりパラメーターの選択に自由度を残している。これは、需要家サイドの振る舞い(電力価格をどのように電力消費量に反映させるか)に許される自由度(許容度)に対応すると考えられるとしている。今後は、そのような需要家サイドの振る舞い(特に、自動デマンドレスポンス)の設計理論を構築する予定だ。
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