100年前の小水力発電を復活させて地域活性、導水にはパイプを使う新手法:自然エネルギー(2/2 ページ)
三重県伊賀市で、民間主導で100年前の小水力発電所を復活させるプロジェクトが進行中だ。導水手法に低コストかつ高効率な新方式を導入するとともに、収益を地域に還元するという、注目の取り組みだ。プロジェクトの概要とともに、三重大学の坂内教授が考案した新しい導水方式を紹介する。
「パイプ型の導水管」、そのメリットとは?
導水管として利用するのは、直径約50cmのパイプだ。この中に水を密閉するように、満水状態にして水を運ぶ。管内が液体で満たされていれば、圧力によって管の途中に出発地点より高い地点があっても、ポンプなどを利用せずに水を運搬できる「サイフォン効果」を生かした導水手法だ。U字型の水路より、多くの水を運べるだけでなく、ポンプ設備を利用しなくていいため、設置コストを削減できるメリットもある。今回のプロジェクトでは、長さ1080mのパイプ管を敷設し、約76.7mの落差を利用して発電する。
この方式を考案した坂内教授によると、50cmというパイプの直径は、さまざまな問題を考慮して決められた大きさなのだという。
「パイプ内を満水状態にして水を流すので、水を運ぶ距離が長くなると、パイプと水の間に摩擦が発生し圧力が少しずつ低下します。さらに、圧力がさらに低下し、飽和圧力より低くなると泡が発生してしまいます。この気体の泡は水が高所から低所に落ちる際に圧力が再び上がることで、再び水(液体)に戻ります。この現象が起きると高圧の圧力波が発生し、最悪の場合水車の羽根を損傷させてしまう場合がありました。そこで今回はこの現象を避けるため、気泡を発生させることなく、最小のパイプ径で最大限に水を流せるようにする計画を立てました。この工夫によって、パイプの材料費や工事費を削減するとともに、水量を増やして発電量を最大化できる最適な設計を行っています」(坂内教授)
数年で黒字化、利益は地域活性化に生かす
建設する発電所、2019年4月の稼働開始を予定している。発電した電力は、全量を「再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)」を利用して、中部電力に売電する予定だ。年間の売電収入は約3500万円を見込んでいるという。建設に掛かる総事業費は約3.7億円だが、坂内教授は「発電所の建設費と保守に要する費用と、馬野川からの取水量を元に試算すると、今回の発電所は発電から2〜3年後に単年度で黒字化となる計画」と話す。
この売電収益を、出資者や地域に還元する取り組みも進める。新会社の、みえ里山エネルギーは、馬野川小水力発電を復活させるプロジェクト地域協議会などと共同で、発電所の稼働に合わせて一般社団法人を設立する。この一般社団法人を通して売電収益を、特産品などの形で出資者に還元する他、地域の活性化事業などに活用していく計画だ。
関連記事
- 「水路で発電」を低コストに、3人で設置できるマイクロ水車
日本の各地に広がる用水路。規模は小さいものの、その水流を活用して発電する取り組みが広がっている。NTNは農業・工業用水路に設置しやすい、プロペラ式の小水力発電機を開発した。このほど福島県須賀川市の「新安積疎水」での実証を終え、2016年12月から販売を開始する予定だ。 - 小水力発電で農地をイノシシから守る、農業用水路に簡易型の水車発電機
農業用水路に簡易型の小水力発電設備の導入を進めている山口県で、新たに1カ所の農村でも運転が始まった。瀬戸内海に近い周南市の山間部にある農地をイノシシの被害から守るために、小水力発電の電力を使って電気柵を設けた。近くにはアジサイ園があり、園内の照明にも利用する。 - 棚田の落差で電力を作る、簡易型の小水力発電が通学路も照らす
発電能力わずか4.8Wの小水力発電設備が山口県で活躍中だ。県内に広がる棚田の農業用水路に設置して、小さな落差で発電することができる。導入費用を県が100%補助しながら、これまでに4つの地域で発電を開始した。発電した電力はサルの侵入防止対策や通学路の照明に利用する。 - 落差1メートルの水路でも発電可能、設置も簡単な小水力発電機
協和コンサルタンツは新開発の用水路向けの小水力発電機の販売を開始した。同社独自開発の相反転方式を採用した発電機で、1メートルと小さな落差でも発電できるのが大きな特徴だ。 - 水道管で発電する「未来の水車」、ダイキンが小水力発電に参入
ダイキン工業は小水力発電事業に参入すると発表した。自社開発の配管に接続できるマイクロ水力発電システムを利用し、自治体と連携して水道施設などを利用した発電事業を展開する。2020年までに一般家庭2万3300件分に相当する8万4000MWhの発電を目指す計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.