EVのワイヤレス充電、SAEが出力11kWの開発指針を発表:電気自動車
自動車および航空宇宙分野の標準化推進団体であるSAE Internationalは、電気自動車(EV)のワイヤレス電力転送(WPT)規格「SAE J2954」において、伝送出力を11kWまで拡張した推奨プラクティスを発表した。
「EVのゲームチェンジャーとなるワイヤレス充電」
自動車および航空宇宙分野の標準化推進団体であるSAE International(SAE)は2017年11月、電気自動車(EV)のワイヤレス充電(WPT)規格「SAE J2954」において、伝送出力を11kWまで拡張した推奨プラクティスを発表した。J2954の正式リリースは2018年中となるが、自動車メーカーや部品メーカーは推奨プラクティスに沿って自社製品の開発や、各社間の相互接続性の検証を行うことが可能となる。
今回SAEが発表したJ2954の推奨プラクティスは、地上側チャージャーと自動車側レシーバーの相互接続性、電磁両立性(EMC)、最低性能といったWPTの安全性や許容基準を業界全体で国際的に確保することが目的。相互接続性評価のため、SAEで標準化した試験装置(発表時点では伝送出力7.7kWまで対応)の仕様も提供する。
この試験装置は同年1月に、SAEで送受電コイル形状の標準として策定された「円形」をベースとしているが、米Qualcommなどが提案する「ダブルD形」といった異なるコイル形状同士の電力転送の互換性を実証する方法も提供する。この点に関してSAEは、米エネルギー省(DOE)アイダホ国立研究所とTDKにおいて、異なる形状のコイル間でWPT実験を行い、3.7kW〜7.7kWの電力範囲では最大93%の伝送効率を達成したと技術論文で報告している。[報告論文]
また一般的にWPTでは、送電コイルと受電コイルの相対的な位置関係が重要となる。この推奨プラクティスは、地上側コイルと車上側コイルに発生する左右方向ずれ許容差を±100mm、高さ方向の地上クリアランスを250mmまで許容する。よって、地上側、車上側コイルの位置をなるべく一致させるため、駐車位置に対して一層の注意を払う必要があるが、磁気による自車位置測位を利用した手動または自動駐車を支援する新しい手法も確立した。この手法により雨天や降雪時など、視界が悪い状態でもドライバーは適正な位置へ自車を駐車することが可能になる。
SAE Wireless Power Transfer and Alignment TaskforceのJesse Schneider座長はプレスリリースで、「(J2954推奨プラクティスで策定する内容は)チャージ・アンド・パークを更に自動化、シームレスにした以上のことを消費者に提供する。近い将来に市販される自動運転車にも悪天候時の自動駐車機能をもたらすなど、消費者が充電にプラグを挿す必要を排除することはEVのゲームを変えていく」と述べ、EVのワイヤレス充電は単なるWPT技術にとどまらず、自動車に新たな価値をもたらすものだとしている。
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