世界トップを目指す日本の水素戦略、再エネ水素は2032年に商用化:エネルギー管理(2/2 ページ)
政府は日本での水素社会の実現に向けた行動目標を示す、「水素基本戦略」を固めた。コストと低減と水素需要の拡大に向け、さまざまな実現目標が盛り込まれた。
2030年にFCVを80万台に
水素の利用を社会に根付かせるためには、水素の利用方法の裾野を広げ、需要を増やしていくことも欠かせない。水素の利用先としてまず想像できるのは、燃料電池車(FCV)だろう。最近では乗用車だけでなく、FCバスやFCフォークリフトなどの導入も広がっている。
水素基本戦略では現在2000台程度が普及しているFCVを、2020年までに4万台、2030年までに80万台普及させるという目標を掲げた。FCバスとフォークリフトはそれぞれ、2020年に100台と500台、2030年には1200台と1万台を普及させる。
こうした水素で駆動するモビリティーの普及には、燃料の供給インフラである水素ステーションの普及も同時平行で進める必要がある。現在、国内の水素ステーションは100カ所程度だが、2020年には160カ所、2030年には900カ所にまで増やす方針だ。水素ステーションの大きな課題である設置コストは2020年をめどに半額まで削減し、2020年代後半には自立運営を可能にする計画だ。
水素需要拡大の切り札は、発電利用にあり
水素の需要を大きく増加させる用途として期待されているのが、発電分野での利用だ。水素基本戦略の中では、現状、開発段階にある水素発電の技術を、2030年までに商用段階へ引き上げ、発電コスト17円/kWh(キロワット時)の実現を目指方針を掲げた。将来的には環境価値も含め、既存のLNG火力発電と同等の、13〜14円/kWh前後の発電コストを目指していく。
水素発電の導入にあたっては、電力システム改革が進展する中で、経済性の確立に向けた制度設計などの検討も同時に進めていく。「CO2を排出しないという水素発電の持つ環境価値を顕在化し、評価・認定、取引可能にしていくことが重要」としており、省エネ法における
水素利用の位置づけを明確化する、あるいはエネルギー供給構造高度化法において、水素発電設備を非化石電源として位置付けることも検討していく。
2030年以降、調達量が増えることが見込まれるCO2フリーな水素は、こうした発電分野の他、工場など自動車以外の産業分野での活用も模索する。
この他、家庭での水素利用の拡大に向けて、家庭用燃料電池「エネファーム」などの普及拡大にも引き続き注力していく。現在エネファームの普及台数は22万台程度だが、これを2030年には530万台に拡大させる。そのためにエネファームの価格を、2020年ごろまでに固体高分子形燃料電池(PEFC)で80万円、固体酸化物形燃料電池(SOFC)で100万円まで引き下げることを目標とした。
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