カーボンナノシートを簡易に合成、低コスト燃料電池への応用も期待:蓄電・発電機器
物質・材料研究機構らは、新しい電子材料として期待されるカーボンナノシートの簡易合成手法を開発。高価な白金を用いない燃料電池の触媒膜への応用などが期待できるという。
物質・材料研究機構(NIMS)は2018年7月、名古屋大学、東京大学と共同で、新しい電子材料として期待されるカーボンナノシートを、簡易に合成する手法を開発したと発表した。高い導電性を生かした太陽電池やタッチパネル、高価な白金を用いない燃料電池の触媒膜への応用などが期待されるとしている。
グラフェンに代表される、二次元状の炭素材料であるカーボンナノシートは、高い導電性や触媒機能も持つため、新しい電子材料や触媒膜として注目を集めている。高品質なカーボンナノシートを合成するためには炭素を多く含む分子を、ナノスケールで構造を制御しながら組み上げることが必要になる。しかし、そのためには高度な手法や高価な装置が必要であり、しかも最終段階において高温で焼成し炭素化する際にナノ構造が崩れてしまうという問題があった。
研究グループが開発した手法は、ビーカーの水を撹拌(かくはん)して渦流を生じさせ、水面に輪状の炭素分子であるカーボンナノリングを展開し、しばらく静置させることで生じる自己組織化した薄膜を基板に写し取る。これにより厚さ10nm(ナノメートル)未満かつ、100μm2にわたって均一な分子薄膜を得ることに成功した。一般的な実験室で利用されるビーカーと攪拌装置のみで再現でき、1ng(ナノグラム)と非常に少量のカーボンナノリングから1m2(平方メートル)のナノシートを作製できる。
このカーボンナノリングから構成される分子薄膜は数十nmの無数の孔(メソポーラス)を持ち、焼成後して炭素化した後もメソポーラス構造を保持したカーボンナノシートが得られた。焼成前のナノシートは電気が流れない絶縁体だが、焼成し、カーボンナノシートとすることで導電体へと変化する。つまり、焼成により炭素同士が結合し、強固なネットワークを持つカーボンナノシートを形成することが示された。ナノ構造を保持したまま炭素化できる事例はめずらしいという。
さらに、カーボンナノリングに窒素を持つビリジンを加えることで窒素を含有したカーボンナノシートを作製。X線光電子分光法(XPS)により、カーボンナノシート内の窒素は有用な触媒活性を示す電子状態であることが示された。
今回開発した薄膜作製法は、これまで均一な薄膜を作製するのが困難であった分子や材料に適用でき、必要な器具もビーカーと攪拌機のみと簡便なため、広く利用されることが期待されるとともに、大面積化することで工業的にも展開可能としている。さらに触媒活性を示すと予想される窒素を含有したカーボンナノシートの合成にも成功しているため、高価な白金を用いない触媒として燃料電池への応用も期待できるとした。
関連記事
- 低コスト燃料電池を実現、白金を使わない新触媒が実用化
日清紡ホールディングスは白金を使わない燃料電池用触媒の実用化に成功。カーボンを主原料とする触媒で、カナダの燃料電池メーカーが開発する固体高分子形燃料電池の電極に採用が決まった。 - リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは
電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。 - 高効率な燃料電池の実現へ前進、実用サイズの新型セルを新開発
産総研はNEDO事業でプロトン導電性セラミックを用いた実用サイズの燃料電池セルの作製に成功。高効率な次世代燃料電池の実現を後押しする成果だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.