低コストで高効率な「タンデム型太陽電池」、東芝が実現に向け成果:蓄電・発電機器
東芝が亜酸化銅(Cu2O)を用いた透明な太陽電池セルの開発に成功。世界初の成果であり、次世代太陽電池として期待される「タンデム型太陽電池」の低コスト化・高効率化に寄与する成果だという。
東芝は2019年1月、亜酸化銅(Cu2O)を用いた透明な太陽電池セルの開発に成功した発表した。世界初の成果としており、現在広く普及している結晶シリコン(Si)太陽電池と組み合わせることで、低コストで高効率なタンデム型太陽電池を実現できるという。
太陽電池の高効率化に向けた手法の1つに、異なる性質のセルを組み合わせるタンデム型太陽電池がある。太陽光が直接入射する上層の透明な「トップセル」と、下層の「ボトムセル」で構成し、異なる材料を組み合わせることで幅広い波長の光を利用でき、変換効率を高められるメリットがある。既にガリウムヒ素(GaAs)半導体などを用いたタンデム型太陽電池が製品化されていて、市販の結晶シリコン太陽電池と比べて1.5〜2倍高い30%台の発電効率が報告されている。一方で、現在主流の結晶シリコン単体の太陽電池と比べて数百倍〜数千倍という製造コストが課題だ。
そこで東芝はタンデム型太陽電池のトップセル用に、亜酸化銅を用いた透明な太陽電池を開発した。亜酸化銅は地球上に豊富に存在する銅の酸化物であり、材料コストを抑えられるメリットがある。さらに、結晶シリコンとは異なる波長域の光を吸収して発電するため、ボトムセル側の発電を阻害しないという。
亜酸化銅は酸化銅(CuO)や銅(Cu)といった不純物相を生成しやすく、かつ混ざり合いやすい性質が持つ。そこで東芝は亜酸化銅の薄膜を形成するプロセスにおいて、酸素の量を精密制御する独自の成膜法を適用。薄膜内部での酸化銅や銅の発生を抑えることで、太陽電池の透明化を実現し、これにより波長が600nm(ナノメートル)以上の長波長光を約80%透過できるようにした。この透明な太陽電池で試作したタンデム型太陽電池では、ボトムセルに用いた結晶シリコン太陽電池が、単体発電時の約8割の出力を維持できることを確認したという。
東芝では3年後の2022年をめどに、今回開発した透過型の亜酸化銅太陽電池をトップセルに適用した低コストなタンデム型太陽電池の完成を目指す方針。現在の結晶シリコン単体の太陽電池を超える、発電30%台のタンデム型太陽電池の実現を目指すとしている。
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