地下水で空調コスト73%削減、岐阜県で地中熱利用システムを実証:省エネ機器
岐阜大学が地中熱利用型の空調システムを実証。既設の吸収式冷温水機空調システムと比べて運用コストを73%削減できることを確認したという。
岐阜大学は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で、岐阜市内の公民館建屋で地下水を直接活用する「オープンループ型地中熱利用空調システム」の実証運転を行った。東邦地水(三重県四日市市)、ゼネラルヒートポンプ工業(名古屋市)、テイコク(岐阜市)との共同プロジェクトで、既設の吸収式冷温水機空調システムと比べて運用コストを73%削減できることを確認したという。
地中熱利用空調システムは、地中の熱を取り出し、ヒートポンプで効率よく熱を輸送して、室内で冷・暖房に利用するシステム。地中熱は、他の再生可能エネルギーと比較してシステム機器の設置場所の制約が少なく、安定供給が見込めるなどのメリットがあることで知られている。しかし、コストの問題により利用が十分には進んでおらず、システム全体の高効率化などによりコスト低減を図ることが、地中熱利用を促進するために必要不可欠となっている。
通常、多くの地域では、地下10メートル以深における地下温度がその地域の年平均気温とおおよそ一致するが、地下水温度が季節変動する条件有利地域では地下温度が夏季に下がり、冬季に上がるため、より高効率な熱利用が期待される。しかし、これまでは、長良川北部のような複数の河川や旧河川が存在する地域では、地下水の流れが複雑であり、精度の高い条件有利地域の抽出が困難だった。また条件有利地域で地中熱利用空調システムを導入・実証した事例はなかったという。
そこで、NEDO事業で、岐阜大学などは、条件有利地域の抽出手法の確立とシステム全体の高効率化による運用コスト低減を図るために、河川水が地下に浸透して地下水となり、温水塊(おんすいかい)や冷水塊として帯水層内を移動する岐阜県の長良川扇状地を実証エリアとして特定し、実証運転を行った。
その結果、通常地域とは異なり夏季には半年前に形成された冷水塊の影響で地下水温度が低下、冬季には半年前に形成された温水塊の影響で地下水温度が上昇するという特性を活用することで、既設の吸収式冷温水機による空調システムと比較して、運用コストを73%削減できることを確認した。
なお、地中熱利用空調システムの構成は、地下水熱交換ユニット(インバーター仕様、1基)、ヒートポンプ(冷暖房出力50キロワット級、インバーター仕様、1基)、地下水逆洗運転システム、地下水揚水ポンプ(定格出力2.2キロワット、インバーター仕様、2基)
今後、岐阜大学とNEDOは、オープンループ型地中熱利用空調システムの稼働データモニタリングおよびシステム効率などの検証を行うとともに、システム普及に向けて地中熱の採熱可能量を可視化するためのオープンループ型地中熱利用システムを対象としたポテンシャルマップの作成を進める。
さらに2019年度以降、東邦地水とゼネラルヒートポンプ工業は、ポテンシャルマップを活用し、地下水逆洗運転システム、地下水熱交換ユニットを備えたオープンループ型地中熱利用システムの事業化を計画している。
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