“燃えない”電解液を新開発、リチウムイオン電池の性能・寿命向上も実現:蓄電・発電機器
東京大学の研究グループが、リチウムイオン電池の発火原因となる可燃性電解液に代わる、新たな溶媒の開発に成功。これを利用すれば、高い安全性だけでなく、エネルギー密度や電池寿命など、性能面の向上も見込めるという。
東京大学の研究グループは2020年3月、炭酸エステル類に代わる多機能溶媒の設計・合成に成功したと発表した。この多機能溶媒をリチウムイオン電池の電解液として用いれば、燃える危険性がなく安全かつ、高いエネルギー密度と長寿命を同時に実現することが可能になるという。
広く普及しているリチウムイオン電池は一般的に可燃性の有機電解液を用いており、これが火災事故の主たる原因となっている。繰り返し充放電のためには負極に保護膜を作る特定の有機溶媒(炭酸エステル類)が必須とされているが、この炭酸エステル類が高い可燃性を持つ。
そこで研究グループは炭酸エチレン(EC)や炭酸ジメチル(DMC)など、炭酸エステル類の代替溶媒になりながら、難燃性と機能性を持つ新たな電解液材料の開発に取り組んだ。ECと同じ五角形構造(五員環)のフッ素化リン酸エステル(TFEP)を開発し、これはSEI(solid electrolyte interphase)と呼ばれる保護膜を形成する能力を持つ。さらにリン酸エステルのように難燃性とともに、フッ素化溶媒の特長である高い酸化耐性を併せ持つという。
この開発した溶媒を電解液として用いその特性を検証したところ、リン酸エステル系溶媒では不可能といわれてきた黒鉛負極の可逆的充放電反応が可能となった。さらに、商用電解液を用いた場合に比べて、より良好な充放電特性が得られることも分かったという。さらに、リチウム基準4.9V(ボルト)の高い酸化耐性を示すとともに、商用のLiPF6以外のリチウム塩を用いた場合に課題となっていた、正極アルミニウム集電体の酸化腐食を抑制できる事もわかった。これらの結果から、次世代高電位正極(LiNi0.5Mn1.5O4)は、安定した繰り返し充放電も可能であることが分かった。
開発した溶媒は既存の電池生産ラインでそのまま使用することができるメリットもあり、ほぼ全ての正極・負極材料で直ちに実証試験が可能という。研究グループは今後、今回開発した電解液の実用化に向けて課題の抽出および解決を行うとともに、さらなる高機能電池材料の開発を進める方針だ。
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