充電できる世界初の小型燃料電池、山梨大・早稲田大が開発に成功:蓄電・発電機器
山梨大学と早稲田大学の研究グループは2020年10月、水素を繰り返し吸脱着が可能なプラスチックシートを内蔵することで、充放電が可能な全高分子形燃料電池の開発に成功したと発表した。世界初の成果であり、モバイル機器などへの応用の可能性があるとしている。
山梨大学と早稲田大学の研究グループは2020年10月、水素を繰り返し吸脱着が可能なプラスチックシートを内蔵することで、充放電が可能な全高分子形燃料電池の開発に成功したと発表した。世界初の成果であり、モバイル機器などへの応用の可能性があるとしている。
家庭用燃料電池などとして既に実用化されている「固体高分子形燃料電池(PEFC)」は、プロトン導電性高分子膜を電解質として用いる。他の燃料電池と比較して運転温度が低く、全固体ゆえに保守が容易かつコンパクトで軽量などの特徴がある。しかし、現在のPEFCにおける水素貯蔵供給システムには、自動車用途では高圧水素タンクから、家庭用では都市ガスの水蒸気改質によって水素を供給しており、携帯性、安全性、エネルギーコストの面では課題がのこる。
山梨大学と早稲田大学の研究グループは、水素を可逆的に吸脱着可能なプラスチックシートを2016年に開発。今回、これをPEFCの水素貯蔵供給媒体としてセルの内側に組み込むことで、繰り返して充放電が可能な「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の原理実証に世界で初めて成功した。しかし、このプラスチックシートを水素貯蔵供給媒体として用いた燃料電池デバイスの開発は皆無だったという。
今回開発した全高分子形リチャージャブル燃料電池の概念図。ポリケトンから成る水素吸脱着が可能なプラスチックシート(HSP)を内蔵することで、コンパクトかつ安全な充電式燃料電池を構築できるという 出典:山梨大学・早稲田大学
開発されたリチャージャブル燃料電池は、一定電流密度(1mA/cm2)において最長で8分程度発電でき、50サイクル繰り返して充放電が可能なことが確認されたという。
研究グループは今回の成果について、開発した燃料電池は水素タンクや改質反応装置が不要なため安全で、かつ軽量で可搬性に優れているため、携帯電話や小型電子デバイスなどモバイル機器用の電源として応用できる可能性があるとしている。
一方、実用化に向けては発電時間や電圧ロスの課題があるとしており、今後は各構成材料の高性能化・最適化や耐久性などの改善に取り組む。なお、今回の正解は、2020 年10月9日(英国時間)にNature系列誌『CommunicationsChemistry』のオンライン版で公開された。
関連記事
- リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは
電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。 - トヨタら6社が燃料電池トラックを実証へ、2022年に物流業務に実証導入
アサヒグループホールディングス、西濃運輸、NEXT Logistics Japan(NLJ)、ヤマト運輸、トヨタ自動車、日野自動車ら6社が、燃料電池大型トラックの走行実証を行うことで合意したと発表。2022年春頃から走行実証を開始する計画だ。 - 水素で動く燃料電池商用船を2024年に実現へ、日本初のプロジェクトが始動
日本郵船、東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、日本海事協会、ENEOSの5社が、高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業を開始。商業利用可能なサイズの燃料電池搭載船の開発および水素燃料の供給を伴う実証運航を目指すプロジェクトだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.