脱炭素社会の切り札となるか――水素エネルギー活用の最前線を巡る(3/3 ページ)
脱炭素社会の実現に向けて、大きな期待が寄せられる水素。そもそも水素が、なぜ脱炭素社会に役立つのか。水素に関する研究は、どこまで進んでいるのか。水素研究の先進地、山梨県を訪ねた。
水素ステーション1カ所に、1000台の燃料電池自動車
次に案内された水素供給利用技術協会(HySUT)水素技術センターは、FCVへの水素燃料供給を行う「水素ステーション」の実証施設。FCVへの水素充填設備の他、水素ガス受入設備・圧縮機・高圧ガス蓄圧器などを備え、日本で唯一、実環境下での性能試験を実施することができる。HySUT は、「水素の安定的かつ安全な供給の確保を図り、水素エネルギー産業の健全な発展に寄与すること」を目的に、FCVに関わる企業が中心となって設立した。
事務局長の池田哲史氏は、「現在、日本には135カ所の水素ステーショが開業しており、2020年度中には157カ所になる見通し。FCVの普及のためには、そのインフラとなる水素ステーションの拡充が不可欠です」と語る。一方で、現状において水素ステーションをビジネスとして成り立たせるためには、1ヵ所あたり1000台程度のFCVが必要になるという。100カ所の水素ステーションを稼働させるためには、10万台のFCVが求められる計算だ。しかし、日本にはまだ4000台ほどしかFCVは走っておらず、「いまは両方とも我慢の段階にある」(同氏)という。
HySUTとしては、実環境化での実証研究を通して低コストな水素ステーションの設備仕様を検討し、FCV需要に先行して、水素ステーションを整備していきたい考えだ。同時に、安全性をいっそう高め、運転管理手法のさらなる高度化を図っていく。
動き出したP2G、水素サプライチェーンの構築に向けて
水素技術センターの近くには、1万kWの米倉山太陽光発電所(山梨県・東京電力協働事業)と990kWの米倉山実証用太陽光発電所(山梨県営)からなる「米倉山メガソーラー」がある。ここでは運転開始以来、各種蓄電システムの実証試験が行われており、2016年からはP2Gシステムの検証も進められてきた。
P2Gシステムとは、前述の通り、再生可能エネルギーによる電力を「貯めやすい」「運びやすい」といった特長をもつ水素に変換し、貯蔵・輸送・利用していこうとするもの。25kWの水電解装置による実証を経て、現在は隣接する電力貯蔵技術研究サイトに、1500kWの水電解装置を核とする水素製造ラインの建設を進めている。
米倉山メガソーラーでつくった電気で、水を電気分解して水素と酸素に変換。1時間当たり400立方メートルの高品質な水素を製造することができるという。製造した水素は、金属内に水素を取り組み安全に保管できる水素吸蔵合金や水素ボンベに貯蔵され、利用場所まで適宜運ばれることになる。2020年度中にも水素製造ラインを完成させ、システムを稼働させる計画だ。
水素の利用場所は、県内最大手のスーパー「オギノ」。まずは、向町店(甲府市)に燃料電池を設置し、運ばれてきた水素を使って発電する。オギノは、これを店舗照明用の電源として活用していく考えだ。山梨県の担当者は、「多くの皆様に知っていただける場所であり、環境活動にも力を入れているスーパーですから、普及啓発の効果が大きいのではないかということで、オギノさんにお願いしました」と話す。
このプロジェクトは、産官学が連携した水素サプライチェーンの構築実証といって良い。脱炭素社会の実現に向けて、山梨県の取り組みがどんな実を結ぶことになるのか、関心は高まるばかりだ。
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