脱炭素化の切り札として注目の「仮想発電所(VPP)」――そのビジネスモデルを整理する:連載「問われる“日本版VPP”の在り方」(1)(2/2 ページ)
再エネ普及や脱炭素化につながる事業モデルとして期待される「バーチャルパワープラント(VPP、仮想発電所)」。中でも地域の脱炭素化に向け、“日本版VPP”の一つとして注目されるのが「地産地消型VPP事業」だ。本連載では「地産地消型VPP事業」について現状の課題とその未来像を解説。今回はまずVPPのグローバルにおける動向と、日本におけるVPPビジネスの現状を整理する。
日本版VPPをビジネスモデル別に整理する
現在日本において検討あるいは商用化されているVPPビジネスは、大きく3種類に分類されると考える(図2参照)。
タイプ1:「トレーディング型VPP事業」
前述した欧米で主流のトレーディング型VPPである。再エネや蓄電池、EVや空調・生産設備などのデマンドリスポンスリソースを束ね、卸電力市場や需給調整市場などの電力市場へ売電するモデルである。
例えば、再エネによる発電量が需要量を上回った場合や、電力市場の取引価格が安い時には蓄電池などで再エネ由来の電力を蓄えておき、市場価格が高い時間帯に電力を売ることで売買差益を高めることができる。これを実現するには、トレーディングのノウハウと電力価格を精緻に予測する技術(AIなど)が必須であり、国内の電力市場で既に取引経験のある旧一般電気事業者や新電力、海外の電力市場に詳しい商社などがアグリゲーターのポジションを目指し、実証事業を行っている段階である。
タイプ2:「再エネアグリゲーションVPP事業」
再エネ電源を束ね、コーポレートPPAの形式でRE100企業や自治体などの法人へ売電するモデルである。再エネ事業者やアグリゲーターとしては、RE100に加盟するような大手企業と、長期の電力販売が契約上保証されることから、特に低圧太陽光などの非FIT・卒FIT電源を束ねたコーポレートPPAを組成する動きが出てきている。
これまでは、企業の敷地内に太陽光パネルを敷き詰め自家消費するオンサイトPPAを中心に開発が進められてきた。しかし、オンサイトのみでは企業の全需要を賄うことができず、遠隔地から企業へ再エネ電力を提供するいわゆるオフサイトPPAも本格検討され始めたが、前例はほとんどない。これは、現行の電気事業法上、企業が発電事業者と直接PPAを締結することができないためであるが、小売電気事業者を介した3者間のPPAは可能である。つまり、小売事業者かつ再エネ開発能力の両方を併せ持つ企業が事業検討しやすい領域であり、今後、小売事業者と再エネ開発事業者の統合・M&Aや、アライアンスも加速していくと考えられる。
タイプ3:「地産地消型VPP事業」
地域内の再エネ電源(太陽光の他、水力、バイオマス、風力など)を電力リソースとし、当該地域や近隣の自治体が有する公共施設および地元企業、将来的にはRE100が当該地域や近隣地域で保有する店舗・工場・倉庫などへ電力を供給していくことが期待されるモデルである。自治体や地元企業が中心となり設立した「地域新電力」は、元来地産地消型の電力ビジネスを行ってきたことから、地産地消型VPPについても地域新電力を中心に事業モデルの形成が進んでいる。
また、本ビジネスは、政府が目指す地域レベルでの脱炭素の取り組みや、企業のESG対応、地方創生やレジリエンシーというテーマとも非常に親和性が高く、さらにはスマートシティ事業にも通じる事業モデルであることから、図2で示されているように多くの業種が参画する取り組みであり、昨今特に注目の集まるビジネスモデルであると考える。
「地産地消型VPP事業」の今後
前述の通り、現在の市場形成状況は欧米とは大きく異なる状況であり、VPP事業者は日本ならではのビジネスモデル検討が問われていると考える。その中で、昨今国内でも急速に進む脱炭素の取り組みと、気候変動による災害増加などを背景として、国としても地域レベルでの再エネ普及を重要なテーマと捉えており、地産地消型VPPの存在感は今後さらに高まると考えられる。
第2、3回目ではこの地産地消型VPPに焦点を充て、その現状や課題の整理と、将来期待されるテクノロジーを紹介していきたい。
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