再エネ普及に期待の「地産地消型VPP」――その飛躍に必要な技術とモデルケースを考える:連載「問われる“日本版VPP”の在り方」(3)(3/3 ページ)
再エネ普及や脱炭素化につながる事業モデルとして期待される「バーチャルパワープラント(VPP、仮想発電所)」。中でも地域の脱炭素化に向け、“日本版VPP”の一つとして注目されるのが「地産地消型VPP事業」だ。同事業を解説する本連載、最終回の今回は地産地消型VPPの飛躍に向けて参考とすべきビジネスモデルや最新のテクノロジーについて、海外事例にも触れながら解説する。
事例3:ブロックチェーンを活用した資金調達
地産地消型ビジネスと相性が良い新たな資金調達源として、セキュリティトークンへの期待が高まっている。セキュリティトークンとは、ブロックチェーンを使い各種資産(株、社債、不動産、債券など)をトークン化、つまり売買可能なデジタル単位に変換する技術のことである。
セキュリティトークンは、小口(案件によるが数万円程度)から投資可能な商品設計ができることから、地産地消型プロジェクトにおいては、地方の非上場・中小企業への出資や、古民家再生などの地方創生型プロジェクトへの投資において活用されている。ネットやアプリで簡単に投資ができるようなユーザーインターフェースが構築され、通常の証券購入よりも気軽に投資できるため、地元の個人投資家や地元の出身者、その地域を応援したい人など、地産地消というコンセプトに賛同するさまざまな人からの資金調達が期待できる。
日本においては不動産業界で先行事例が出てきている。例えば不動産のクラウドファンディング事業を展開するエンジョイワークス社は空き家プロジェクト「葉山の古民家宿づくりファンド」において、LIFULL(ライフル)社とデジタル証券プラットフォームを提供するSecuritize Japan(セキュリタイズジャパン)が共同で提供する不動産特定共同事業者向けSTOプラットフォームを通じ、一般の投資家向けにセキュリティトークンを活用し資金を調達している。地域に眠る空き家を古民家宿にリフォームし、地域の新たな資産に変えていくというビジネスコンセプトの下、セキュリティトークンを用い投資家が参加しやすい環境を整えることで約1500万円の調達に成功している。
地産地消型の再エネ事業においても同様のモデルでビジネス構築を狙う企業もあり、特に資金調達面で再エネ開発が難航しているプロジェクトや、銀行融資では希望するIRR(内部収益率)を達成できない事業者にとって、セキュリティトークンはその解決の糸口になると考える。
なお、セキュリティトークンを活用した再エネプロジェクトの組成においては、再エネ開発事業者、証券会社、アセットマネジメント企業など多様なステークホルダーを巻き込み推進していく体制をまず構築することが重要だ。
終わりに
計3回の連載を通して、日本版VPPの在り方と、地産地消型VPPの飛躍に向けたポイントについて論じた。再エネ資源は、その地域が有する資産であるために、地域との共生を前提に開発を検討すべきであり、地産地消型VPPモデルを以て循環型経済を築くという取り組みは、全国各地でニーズの高いビジネスコンセプトと考える。
とはいえ、さまざまなデジタル技術の導入が不可欠であり、そのノウハウは地域内のみでは不足しているだろう。そのため、各自治体は、先進的テクノロジー・ビジネスモデルを有する企業を誘致できるような支援体制の構築を、企業は国内外の先進事例やテクノロジーの提案・提供と、各種ステークホルダーを巻き込む推進力が求められると考える。
脱炭素社会という共通のゴールに向かって、自治体と企業のさらなる連携により日本版VPPがより発展していくことを期待したい。
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