低コストな再エネ水素の製造法、ENEOSらが実用レベルでの技術検証に成功:蓄電・発電機器
ENEOS、千代田化工建設、クイーンズランド工科大学(QUT)の3者が、2018年から取り組んでいるCO2フリー水素のサプライチェーン構築実証において、実際に使用できるレベルまで規模を拡大し、燃料電池自動車(FCV)への充填(じゅうてん)に成功したと発表。低コストなCO2フリー水素のエネルギー活用を後押しする成果だという。
ENEOS、千代田化工建設、クイーンズランド工科大学(QUT)は2021年11月2日、2018年から取り組んでいるCO2フリー水素のサプライチェーン構築実証において、実際に使用できるレベルまで規模を拡大し、燃料電池自動車(FCV)への充填(じゅうてん)に成功したと発表した。低コストなCO2フリー水素のエネルギー活用を後押しする成果だという。
次世代エネルギーとして期待される水素だが、実用化の課題とされるのが貯蔵や輸送に掛かるコストの低減だ。一般的な手法として、水電解によって生成した水素をタンクに一度貯蔵し、次に有機ハイドライドの一種であるメチルシクロヘキサン(MCH)に変換し、輸送しやすくするという方法がある。MCHは常温常圧で安定した液体であり、化学物質としてのリスクも低く、扱いやすいといメリットがある。
今回の3者が取り組んだ実証では、この水素をMCHに変換する工程を大幅に簡略化し、水とトルエンから一段階の反応でMCHを製造する技術を活用。これはENEOSが開発した「「有機ハイドライド電解合成法(Direct MCH)」という手法で、将来的にはMCH製造に関わる設備費を約50%低減できる見込みだという。
実証ではこの技術と、クイーンズランド工科大学が所有する集光型太陽光発電を利用し、オーストラリアで再生可能エネルギー由来のMCHを製造。その後、日本に輸送したのちに水素を取り出して活用するという、サプライチェーンの構築を目指している。これまでは、実験室レベルの規模で技術検証に成功していたが、このほど約6kgという実際に使用できるレベルの水素を取り出すことに成功し、実際のFCVで活用することに成功した。
ENEOSはDirect MCHで製造できる水素量の増加に向けて、使用する電解槽の大型化に取り組んでおり、今回の技術検証はその一環になるという。今後2022年度には大型電解槽のベースとなる150kW(電極面積3m2)級の中型電解槽を完成させ、2025年度をめどに5MW級の大型電解槽の開発を目指す。将来的には2030年度をめどに、CO2フリー水素サプライチェーンの構築を目指す方針だ。
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