「COP26」の“前と後”を読み解く――日本企業が知っておきたい気候変動の潮流:「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(前編)(5/5 ページ)
気候変動に対する世界的な危機感の高まりから、その開催に大きな注目が集まった「COP26」。では今回の「COP26」、そしてそれ以前から続く世界の気候変動に関する大きな流れについて、日本企業は何に注視し、どのように事業戦略に落とし込んでいけばよいのだろうか。「COP」の概要や他国の取り組みをもとに、そのポイントを解説する。
途上国における「COP26」に対する反応
若者と同様に、COP26の結果を見ていくにあたり途上国は最も重要なアクターの一つだ。先進国の取り組みは新聞や調査などで事例を確認できるが途上国の現状は日本ではあまり知られていない。気候変動に対して最もぜい弱なのは自国では十分な対応ができない途上国だ。頻発する大規模洪水やハリケーン、蝗害(こうがい)や干ばつなどは第一次産業や特定産業に依存する国家の経済活動を破壊する。それだけでなく、インフラや経済活動が破壊されることによるジェンダー不平等の助長、食料価格の高とう、疫病のまん延、貧困や難民の発生、治安の不安定化など社会生活にも負の影響をもたらす。
実際に途上国はCOP26の結果をどのように受け止めているのだろうか。筆者は幸運にも、先のミラノで開催されたYouth4Climateでカタール代表として参加したニシャード・シャフィ氏(Neeshad Shafi)に話を聞くことができた。彼はもともと日系水資源系エンジニアリング企業のエンジニアであったが、気候変動に対して抱く危機感の下、同国の若者達で構成されるロビー団体Arab youth Climate Movement Qatarを創設し活動を続けている。シャフィ氏が代表を務めたカタールは天然資源に恵まれ、世界で最も裕福な国の一つである。彼はサミットを通じて先進国に対する期待や途上国の反応などに関して何を見たのだろうか。シャフィ氏の所感を紹介したい。
Youth4Climateサミットについて
2日間にわたるサミットでは、われわれの提言に関して、国連大使のウィックラマナヤケ氏をはじめ50人以上の閣僚と会談を重ねました。そこで感じたのは、われわれの声が極めて重要であるとリーダーたちが理解していることです。特に、ミレニアル世代やZ世代は、過去に類を見ないほどムーヴメントを起こしていると実感します。恐らく、最も危機感を感じている世代だからだと思います。
カタール人の気候変動に対する意識
アラブの若者は気候変動に対して真剣に考えています。しかし、残念ながら若者が意見を言えるような機会が少ないので、最前線に若者がいるとは言えません。そのため、私が創設した団体も発言する機会を作ることに注力した活動をしています。
カタールは天然ガスと石油の国で、多くの科学者は海面上昇によって沿岸地域が水没すると見込んでいます。加えて、気温の上昇を危惧しています。私は恵まれており、どこに行ってもクーラーがあります。しかし、建設現場や交通セクターで働く人はいつも非常に暑く厳しい環境で働いています。また、カタールにある巨大外資企業は気候変動に対する意識は高いですが、地場企業や中小企業になると持続可能性に対する理解がなく経済的利益だけを追い求めています。恐らく、社会問題を知る機会や研修が足りていないのだと思います。
気候変動における世界の潮流
全ての国は自国経済を発展させる権利を持っているはずですが、これまで地球を汚染してきた大国は、今日では途上国の努力が足りないと批判しています。(コペンハーゲンで約束された)先進国から途上国への1,000億ドルの資金供与は達成されていません。われわれ途上国が気候変動によって失うこと、またその被害についてはもっと調査が必要であると感じています。
日本への期待
COP26においては石炭使用について、インドと中国と同じ立場についたことに失望しました。石炭廃止に向けた議論を脱線させたと思います。インドのように膨大な石炭埋蔵量がある途上国なら反対する理由はわかりますが、日本のような経済、技術大国に対しては許容されないと考えます。日本も含めた工業国はパリ協定を達成するために、再生可能エネルギーの技術開発や技術移転の資金供与、投資の門戸を開いておくことが期待されていると思います。
シャフィ氏の意見は一個人の所感に過ぎないかもしれない。しかし、若者が自分たちの未来に対して真剣に考えており、社会を良くしようと活動している。その声に耳を傾け、具体案に落とし込む仕組みが全ての国に求められているのではないだろうか。
次回、本稿の後半では、COP26開催後の世界の動きや、それを踏まえた上での日本企業の現状、そして今後のとるべきアクションについて解説する。
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