電力小売市場の活性化を担う「ベースロード市場」、低調な約定率とエリア格差への対応策は?:法制度・規制(3/3 ページ)
新電力が大型水力・火力・原子力などのベースロード電源にアクセスしやすくすることを目的にスタートした「ベースロード市場」。2019年7月から運用が始まったが、市場分断による価格差や低い約定率が課題として指摘されている。今回はこのベースロード市場に関する今後の方向性が議論された第64回「制度検討作業部会」の内容を紹介する。
エリア間値差への対処策は?
九州エリアのように特に大きな市場間値差が発生することにより、売り手事業者は費用を適切に回収できないことや、買い手事業者はBL市場約定価格を上回る価格を支払う状態が続くことは、持続可能ではないと考えられる。
この問題に対する最も単純な解決策としては、BL市場の市場範囲の変更(九州エリアの分割)がある。現在の北海道と同じく、九州エリアを1つの市場に変更することにより、九州では値差は発生しなくなる。
しかしながら制度検討作業部会では、BL市場は当初から全国一律を志向していることや、市場の流動性・競争性を維持する観点から、2022年度時点では市場範囲は変更しない結論とされた。
九州エリアの売り手(発電事業者)の市場間値差損失だけでなく、他エリアの売り手/買い手双方の値差リスクを緩和するための方策として、値差を別途清算する案が検討されている。
想定される値差を売り手があらかじめ供出価格に織り込む方法のほか、値差の一定割合を事後的に清算する(売り手・買い手双方が対象)などの複数の案が示されている。
理論上、清算対象は差益/差損のいずれもあり得るものであるが、速やかな制度変更を重視して、まずは値差損失のみが清算対象とされる。
なお値差による損失を補填(清算)するためには、金銭的な原資が必要となるが、JEPXで発生する値差収益(BL市場相当分に限る)を充てる案が示されている。
ただし、JEPXの値差収益は現在すでに、間接オークション経過措置や間接送電権に対する支払いのほか、今後は広域機関を通じて、全国の地域間連系線の増強費用に充てられることが決まっている。
本来、市場間値差はBL市場に限らず、すべての市場参加者が直面するものであり、適切な価格シグナルが発せられることにより、供給力の追加や需要の創出(抑制)、地域間連系線の増強などが促されるはずである。
さまざまな制度変更の過渡期にあるためやむを得ない面があるものの、市場の歪みを減らす取り組みが求められる。
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