原子力発電の円滑な廃炉へ残る課題――日本の状況に合わせた体制整備が急務に:エネルギー管理(4/4 ページ)
日本国内にある約60基の原子力発電所のうち、24基の廃炉が決定している。2022年7月には「廃炉等円滑化ワーキンググループ」が設置され、円滑な廃炉の実現に向けた課題の整理と対策の検討がスタートした。
廃炉・廃止措置資金の確保が課題に
現在国内では「解体引当金制度」が存在し、原子力事業者は省令に基づき、毎年、各発電所の解体費用の「総見積額」を算定し、原則40年の稼働期間中に定額ずつ引き当てを行っている。
引当金は各事業者の貸借対照表で負債として計上されているが、このことをもって廃炉という使途に限定した現金が確保されるわけではない 。
原子炉を保有する旧一般電気事業者は、小売全面自由化以降の競争激化や燃料費高騰に伴う収益低下や赤字に直面しており、廃炉資金確保の不確実性が課題として指摘されている。
諸外国では廃止措置に関する資金確保として、外部基金への拠出方式や内部積立方式、内部留保方式により、廃炉資金を確保することが法的に義務付けられている。
また日本でも、使用済燃料の再処理については、発生した使用済燃料の量に応じて、原子力事業者が先述の「使用済燃料再処理機構(NuRO)」に拠出金を支払うことにより、必要な資金を安定的に確保している先例がある。
クリアランス物の利用・処分が課題に
クリアランス制度とは、原子力発電所の廃止措置等に伴って発生する放射性廃棄物のうち、放射性物質の放射能濃度が低く、人の健康への影響がほとんどないものについて、国の認可・確認を得て、通常の産業廃棄物として再利用または処分できる制度である。
110万kW級の沸騰水型軽水炉(BWR)原子炉を解体した場合、金属やコンクリートのクリアランス物が約2.8万トン排出されると試算されている。資源の有効利用の観点から、金属等の再利用の取り組みが進められている。
またクリアランス物の利用・処分が進まない場合、廃止措置に伴う解体物の搬出ができず、廃止措置の障害となることが懸念されている。
福井県では「嶺南Eコースト構想」のもと、廃炉事業の産業化を検討しており、その一つのプロジェクトとしてクリアランス物の事業化がテーマとされている。
円滑な廃止措置を進めていくに当たっては、立地地域の理解を得ることが何より重要である。このためには、それぞれの原子力事業者が主体となりつつも、全国的な理解を得るために事業者間、また国との連携・協働が行われることが望ましい。
図5のような新たな連携体制は、技術面や設備調達費用面に限ることなく、コミュニケーション面など多面的な連携が進むことを期待したい。
関連記事
- 停止中の「柏崎刈羽原発」では何が行われているのか
全原子炉が停止している東京電力の「柏崎刈羽原子力発電所」。現在も原子力規制委員会による安全審査が続いているところだ。同発電所では2011年に起きた福島第一原発での事故を受け、これまでどういった安全対策を進めてきたのか。内部を取材した。 - FIT終了後の中小規模太陽光をどうすべきか――政府が長期稼働に向けた施策を検討
日本の主力電源として期待される太陽光発電。既に導入されている太陽光発電の長期稼働を支える施策として、政府では小規模な発電設備を集約(アグリゲーション)する方法を検討中だ。 - 電力供給の信頼度評価は基準を見直しへ、太陽光の導入拡大や需給実態を考慮
電力需給の安定供給に対する懸念が高まっている昨今。政府では電力の安定供給に関する信頼度評価の算定方法を見直す方針だ。本稿では現状の評価手法の概要と、今後の見直しの方向性を整理する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.