日本の蓄電池産業の課題と展望――政府が公表した「蓄電池産業戦略」を読み解く:蓄電・発電機器(5/5 ページ)
自動車の電動化や再エネの導入拡大に向けて、欠かせない重要技術・製品である「蓄電池」。政府は2021年11月から検討を進めてきた、国内の蓄電池産業の競争力強化を目指す「蓄電池産業戦略」について、そのとりまとめ案を公表した。
蓄電池のサステナビリティ確保が大きな課題に
EUの「バッテリー規則」が、蓄電池の製造・廃棄時の温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント:CFP)に対する規制のほか、環境・人権等に配慮した責任ある材料調達(デュー・ディリジェンス)、リサイクル等を義務付けているように、世界的に蓄電池のサステナビリティ確保が求められている。
経済産業省では、蓄電池産業の事業継続においてサステナビリティの確保が必須条件であるとして、「1.カーボンフットプリント(CFP)」「2.人権・環境デュー・ディリジェンス」「3.リユース・リサイクル」および、これらを実施するための「4.データ流通の仕組み」について検討を行ってきた。
現在CFPは各社で算定方法が異なる為、上流に遡るほど算定方法が複数存在し、サプライチェーン全体で、膨大な作業工数が発生している。
このため経済産業省では今年度、CFP算定や人権・環境デュー・ディリジェンス方法等の統一化に向けた試行事業を行い、ルールの具体化に向けて取り組む予定である。
蓄電池安全性等の標準化
蓄電池の安全性は日本企業の強みの一つとされており、今後の蓄電池大量導入に対する社会的受容性を高めるためにも、安全性の確保は前提条件となる。
日本はこれまでも、類焼試験など定置用大型蓄電システムの安全性規格(IEC 62933-5-2)などを主導提案し、複数の国際規格を作成、発行してきた。
今後は、リユース電池の活用と安全性維持の必要性が高まることから、電池ライフサイクル管理による電池の安全性維持等に関する国際規格の提案、策定を進め、日本企業の優位性を生かしたグローバルスタンダードの形成を図るとしている。
安価な再エネ電力の大量導入
蓄電池や電池材料の製造工程においては多量の電力を消費するが、図8のように欧州では「バッテリー規則」により、CFPの大きい製品は輸出が出来なくなる。
よって、変動再エネ電源の大量導入には蓄電池が不可欠であるのと同時に、国内で蓄電池の製造拠点を維持するためには、安価でCO2排出の少ない再エネ電力を供給することが、国内蓄電池産業の環境整備の一つとして、今後さらに重要となる。
蓄電池は、すでに欧米中韓の世界各国の企業や政府が大規模な投資戦略を掲げている。例えば韓国では、「K-バッテリー発展戦略」のもと、2030年に2次電池の世界トップを目指すとして、韓国電池メーカー3社と素材・部品企業は、2030年までにR&Dと設備投資に合計3.9兆円を投資する方針を表明している。
韓国各社の投資計画の例として、LGエネルギーソリューション社では250GWh(2023年)、SKイノベーション社では500GWh(2030年)の大半は、国外での工場建設が計画されている。
各国の蓄電池産業戦略は自ずと似通ったものとなるが、日本の蓄電池産業の生き残りのためには、大規模投資が不可避となっている。
関連記事
- リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは
電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。 - 再エネ大量導入が実現した2050年、系統安定に必要な「調整力」のコストはいくらか?
2050年に向けて再生可能エネルギーのさらならる導入が進められているが、その時に電力需給のバランス維持に必要な「調整力」の必要量とコストはどの程度なのか――その試算が公開された。 - 電力需給の安定化を担う「需給調整市場」、一次調整力の広域調達も実施へ
電力系統の安定化に必要な「調整力」を取引する需給調整市場。最も素早く需給調整に利用できる「一次調整力」の全国的な広域調達の開始に向け、課題の整理と検証が行われた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.