運輸部門の脱炭素化へ――合成燃料「e-fuel」の普及に向けた課題と展望:エネルギー管理(4/4 ページ)
運輸部門の脱炭素化に向けて、既存の化石燃料の代替となる合成燃料「e-fuel」の本格的な普及に向けた検討が始まった。技術・価格面において残る課題、事業環境の整備に向けた今後の論点を整理する。
導入が先行しそうな航空分野の展望
航空分野のうち、日本国内のCO2排出量として算定されるのは国内航空のみであり、その年間CO2排出量1,049万トンは運輸部門の5.1%を占めている。
航空各社から成る定期航空協会では、2050年カーボンニュートラルの実現を宣言している。
これに対して、国際航空では国別のGHG削減ではなく、国際民間航空機関(ICAO)により、「2019年以降、CO2排出量を増加させない」というグローバル削減目標が設定されている。世界全体のCO2排出量335億トンのうち、国際航空が占める割合は約1.8%である。
カーボンニュートラルを実現していく手段として、「持続可能な航空燃料(SAF)」の導入による削減効果量が最も大きく、全体の60〜70%を占めると推計されている。
SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは、廃食油や都市ごみ、藻類、木くず等から製造するバイオマス由来燃料と、合成燃料の総称である。
2050年時点のSAFの想定必要量は、日本国内で2,300万KL、全世界では5.5億klと推計されているが、バイオマス系だけでは原料の確保に限界があることから、合成燃料の安定供給が不可欠と考えられている。
SAFは国際線発着双方の空港で必要となるため、もし国内で高品質・低価格なSAFが供給されなければ、日本の空港が国際線就航地として選択されず、日本発着の国際線ネットワークが著しく棄損すると懸念されている。
国際航空では、「CORSIA(国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム)」のもと、カーボンオフセット義務が発生するため、民間航空会社だけでなく各国政府はSAFの安定確保に向け、既に動き始めている。
合成燃料は、このような義務的市場が存在する分野で、先行的に導入が進むと考えられる。
本稿で紹介した運輸部門のほか、発電分野では脱炭素燃料として水素やアンモニアの大規模な需要が見込まれている。
グリーン水素やそれを製造(水電解)するための再エネ電力の獲得に向けた、世界的な争奪戦が始まりつつある。
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