長期脱炭素電源オークションの詳細設計――求められる脱炭素化ロードマップ:法制度・規制(4/4 ページ)
2023年度に始まる脱炭素電源への新規投資の促進を目的とした「長期脱炭素電源オークション」。初回入札に向けて、制度の詳細の検討が進んでいる。
長期脱炭素電源オークション拠出金の負担者
長期脱炭素電源オークションは容量市場の「特別オークション」の一つと位置付けられており、長期的な供給力の確保が最大の目的である(ただし本制度では、脱炭素化も等しく重要である)。
このため、長期脱炭素電源オークションの拠出金の負担者は、現行容量市場と同様に小売電気事業者と送配電事業者であり、小売電気事業者は容量拠出金を支払うことにより供給能力確保義務を果たすこととなる。
本制度で落札した脱炭素電源は、本制度による容量収入のほか、JEPXスポット市場や需給調整市場、非化石市場からkWh価値・ΔkW価値、非化石価値に対する収入(以下、他市場収益)を得ることが通常である。
ここで、入札事業者自身が他市場収益を予想し、応札価格から控除する「容量市場」とは異なり、長期脱炭素電源オークションでは20年間の他市場収益を合理的に見積もることは不可能であることから、応札時点では他市場収益はゼロとして、事後的に還付する方法が採用された。(ただし、他市場収益の10%程度は稼働インセンティブとして発電事業者が得られることとし、90%を広域機関に還付する)
ところが最近のJEPXスポット価格高騰のように、発電事業者の他市場収益が非常に大きくなった場合は、「本制度からの容量収入」よりも発電事業者からの「還付額」の方が大きくなることも考えられる。
この場合、元々の容量拠出金を負担している小売電気事業者等に対して、広域機関からその差額を精算することとする。
長期脱炭素電源オークションは制度設計に関する論点が多く、2023年度の初回オークションを前にして、未定の部分も残されている。
本来、脱炭素電源の早期導入を目的とした本制度が、発電事業者の意思決定を足踏みさせることの無きよう、早期の制度詳細確定が望まれる。
関連記事
- 2023年度に「長期脱炭素電源オークション」が始動、対象電源と制度設計の詳細は?
「2050年のカーボンニュートラル実現」に向け、新たな低炭素電源のへの投資拡大を目的とした新制度「長期脱炭素電源オークション」が2023年度からスタート。本稿ではその概要について解説する。 - 電力小売市場の活性化を担う「ベースロード市場」、低調な約定率とエリア格差への対応策は?
新電力が大型水力・火力・原子力などのベースロード電源にアクセスしやすくすることを目的にスタートした「ベースロード市場」。2019年7月から運用が始まったが、市場分断による価格差や低い約定率が課題として指摘されている。今回はこのベースロード市場に関する今後の方向性が議論された第64回「制度検討作業部会」の内容を紹介する。 - 見直しが必須の「容量市場」、現状の課題と新たな制度設計の方針は
将来の電力供給力確保を目的に導入された「容量市場」。既に2020年に第1回の入札が行われたが、足元の電力市場環境の変化を受けて、制度設計の見直しが進められている。2022年4月25日に開催された第64回「制度検討作業部会」で議論された、容量市場の今後に関する検討内容を紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.