急増する再エネ・EVなどの「分散型リソース」、電力系統での有効活用に向けた国内外の動向:エネルギー管理(3/3 ページ)
小規模な再エネ電源やEVなど、いわゆる「分散型リソース(DER)」の電力系統への接続が加速するなか、DERをうまく活用した電力システム運用方法が求められ始めている。そこで政府では「次世代の分散型電力システムに関する検討会」を新たに設置し、DERの活用による電力システムの効率化・強靭化に向けた検討を開始した。
低圧需要家のリソース活用
現在国内では、低圧需要家のリソースは一定の条件を満たすことにより、卸市場(kWh取引)や調整力公募(電源I')、容量市場(kW取引)に参加可能であるが、需給調整市場(三次調整力①、②のΔkW取引)には制度上、参加することができない。(二次調整力①②や一次調整力は未定)
これに対して諸外国では、需給調整市場における低圧リソースの活用事例が多く存在する
なお、需要側リソースをDER(DR)リソースとして活用するためには、アグリゲーションの有無を問わず、遠隔制御するための通信コストが発生するが、小規模な低圧リソースでは、相対的に通信コスト負担が大きいことが課題である。このため蓄電池メーカー監視機能など、他の目的で設置された既存の通信ルートを活用することなどが検討されている。
また専用線ではない安価なインターネット回線を使用する際には、サイバーセキュリティ対策の在り方に関する検討が必要とされる。
低圧リソースの数が膨大に増加することは、一般送配電事業者によるアセスメント等に係る費用も増大するおそれがあるため、社会的便益として成立するか否かの観点で評価を行う必要性が指摘されている。
DERの配電系統での活用
配電系統への再エネ電源やEV等の大量の接続は、配電系統の混雑だけでなく、上位系統の混雑にも影響を与え得るものである。また電圧上昇・降下等の問題が顕在化することが懸念されている。
今後、配電系統内のEV等のDERを適切に制御することは、系統増強工事を回避したうえでの系統混雑の緩和や、再エネ電源接続量の増加、電圧制御の安定化につながるものと期待されている。
このため英国では、系統の混雑解消や系統増強投資の回避を目的として、DERによるフレキシビリティ(柔軟性)を調達するローカルフレキシビリティ市場を導入している。これは既存のエネルギー(kWh)市場とは異なる独立した市場であり、そのフレキシビリティの購入者は6つのDSO(配電事業者)である。
またオランダでは、上位系統の混雑解消を目的として、ローカルフレキシビリティ市場を運用しているが、これは既存の当日市場(kWh)と統合した市場である。
よって仮に日本でもDER取引市場(ローカルフレキシビリティ市場)を導入する場合、どのような市場とするのか、慎重な検討が必要となる。
また国内ではNEDO検証事業により、アグリゲーターが持つDERリソースや一般送配電事業者の電力設備情報を登録し、マッピングした上で、当該情報を活用してΔkW(フレキシビリティ)を公募調達するシステム導入に関するFSを実施中である。
日本では、送電事業と配電事業が一体的に同一事業者によって運営されており、このことはシームレスな運用が可能という大きなメリットがある反面、エリア内で原則一律の対応が求められるという制約も生じていた。
これに対して、新たに配電事業ライセンスが2022年4月に開始されたことにより、特定の区域に限定したかたちで、配電事業者が先進的なAI・IoT等の技術やDERを活用しながら系統運用することが制度上可能となっている。
これにより都市部など高密度な需要地や、その逆に再エネ電源の高密度地域など、それぞれの地域特性に応じた配電系統の運用最適化が行える可能性がある。
今後、大量のDERが系統接続していくことは不可避であるため、その特徴に応じた電力システムを構築することやDER価値の最大限の活用を目指すことは重要である。ただし、DERの活用自体はあくまで手段であり、目的ではないことに留意が必要である。
また、市場等の経済的手法の活用も手段である。EVやヒートポンプ等のような大量・コモディティの場合は、規格や系統接続ルール等による規制が簡便である可能性もある。DERとして制御できないリソースが拡散する前に、適切なロードマップとルール作成が進められることを期待したい。
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