「改正省エネ法」の対応ポイントは“再エネの活用”、主要5業種のエネルギー転換目標が明らかに:エネルギー管理(4/4 ページ)
2023年4月から施行される改正省エネ法。その改正内容は、非化石エネルギーやデマンドレスポンスの利活用を求めるなど、需要家側にエネルギー利用の高度化を促すものとなっている。2022年末に開催された政府の委員会で、改正省エネ法の制度運用の具体化が検討され、その取りまとめ案が示された。
主要5業種の非化石エネルギーへの転換に向けた取り組み
改正省エネ法において、非化石エネルギーへの転換に関する具体的な目標値は個々の事業者が設定するものであるが、国(経済産業大臣)は「非化石エネルギーへの転換に関する事業者の判断の基準」を策定し、業種別の非化石エネルギー使用割合の「目安」を提示することとしている。
制度開始初年度(2023年度)は、ベンチマーク制度等によって情報入手が可能なエネルギー多消費産業等として、「1.鉄鋼業(高炉、電炉普通鋼、電炉特殊鋼)」「2.化学工業(石油化学、ソーダ工業)」「3.セメント製造業」「4.製紙業(洋紙・板紙)」「5.自動車製造業」における目安が設定された。
なお目標の目安は、定量目標と定性目標の両面で設けられている。
鉄鋼業(高炉)の非化石転換の定量・定性目標の目安
鉄鋼業(高炉)においてはエネルギー使用量全体の約8割を石炭が占めており、高炉の非化石転換にあたっては石炭を非化石燃料に代替することが重要である。
他方、高炉において石炭以外の還元材が本格的に活用できるのは2040年代以降と考えられているため、2030年時点での達成手段は水素、廃プラスチック、バイオマスの導入等に限られる。
よって鉄鋼業(高炉)の2030年度定量目標目安は、粗鋼トンあたり石炭使用量原単位を2013年度比で2.0%削減とされた。
定性目標では、高炉を用いた水素還元製鉄設備や水素による直接還元製鉄設備の導入を目指して、研究開発及び実証実験を進めることなどが目安とされている。
製紙業・石油化学・ソーダ工業における非化石転換の定量・定性目標の目安
洋紙・板紙・石油化学・ソーダ工業の4分野では、石炭を電気と熱の両方に使うという点で共通している。
よって、主燃料を石炭とするボイラーを有する事業者については、2030年度における石炭使用量を、2013年度比で30%削減することを定量目標の目安とする。この30%とは、各社の2013年〜2021年度にかけての石炭使用量削減率の平均値を2030年度まで引き延ばした上に、野心的目標として標準偏差σを上乗せした数値である。
なお、石炭ボイラーを保有しない事業者については、外部調達電気の非化石比率59%を定量目標の目安とする。この59%とは、第6次エネルギー基本計画で掲げられた2030年度非化石電源比率と同じ数値である。
セメント製造業の非化石転換の定量・定性目標の目安
セメント製造業では、焼成工程(キルン等)において、最もエネルギーが消費されるため、当該工程の非化石転換が重要である。
現状、キルンでの非化石燃料割合は業界平均で約21%となっているが、「平均+標準偏差σ」に相当する値として、非化石比率28%を定量目標の目安とする。
なお、定量目標の目安は各業界で一律の数値であるが、既にこれを達成している事業者はより高い目標を設定することや、あるいは達成が極めて困難と客観的に判断できる事情がある場合には、目安と異なる数値を目標として設定することも考えられる。
上記5業種以外のその他すべての業種の特定事業者は、自社使用電気(自家発含む)に占める非化石電気の比率を目標として設定し、その達成に向けた計画・報告を行うことが求められる。
もちろん使用電気以外においても、事業者が非化石エネルギー転換の目標を任意に設定することは妨げられない。
省エネ法では対象事業者(特定事業者)の数は約1万2000者に上り、そのエネルギー使用量カバー率は産業部門の79%、業務他部門の61%となっている。
今後、改正省エネ法において従来の省エネだけでなく、非化石エネルギーへの転換に関する中長期計画書の作成・定期報告が義務付けられることは、カーボンニュートラル実現に向けた大きな推進力となると期待される。
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