電力の安定供給と経済性を両立、kWhとΔkWを同時約定させる「同時市場」を導入へ:エネルギー管理(5/5 ページ)
2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、電力の安定供給と経済性の両立を実現できる、新たな電力システムの在り方が模索されている。政府ではその方策の一つとして、kWhとΔkWを同時に約定させる新市場の導入を検討中だ。
セルフスケジュール電源の取り扱い
現行制度を抜本的に変更し、同時市場において一元的なメリットオーダーを追求する観点からは、本来すべての電源は、3-Part情報等を提出しメリットオーダーで約定処理することが原則である。
しかしながら技術的制約等により、一部の電源において特別の配慮を行うことが検討されている。
作業部会では、出力制御に課題がある電源や系統信頼性の維持のために必要な電源等を「長期固定電源等」と呼んでおり、表内の間接オークションにおける承認電源等が参考とされている。通常、これらの電源は出力の変更が困難とされる。
- 長期固定電源(原子力、水力(揚水式を除く)又は地熱)
- 運転中の発電機出力が連系線の運用容量に影響を与える電源制限装置を有する電源
- 電気の受給契約(上記1.及び2.の電源に係る電気を含むものに限る。)又は当該受給契約に代わる同一事業者内の計画等
- 電気事業法第24条第1項に定める供給区域外に設置する電線路による託送供給に係る一般送配電事業者たる会員の間で行われる電力の運用に係る契約
- 流通設備の作業停止に伴い一般送配電事業者たる会員の間で行われる電力の運用に係る契約
また長期固定電源等以外の電源であっても、経済的な理由から相対契約等を用いることにより、発電量を自社で確定させたいというニーズも存在する。このような相対契約電源と長期固定電源等を合わせて、セルフスケジュール電源と呼んでいる。
作業部会ではセルフスケジュール電源について、例外なく同時市場への入札を求める案と、入札を不要とする案、の2つが比較検討されている。
入札を必須とする案の場合、セルフスケジュール電源のうち長期固定電源等は最優先で約定・稼働させるため、価格入札を不要として、量のみを入札させることとする。
他方、入札を不要とする案の場合であっても、情報把握の観点から、セルフスケジュール電源は前日同時市場システムへ、情報のみを登録することを求めることとする。
なお、差金決済等の市場外取引を認める場合には、いずれの方式であっても経済的には等価であることが確認されている。
図6は、事前の相対契約により12円/kWhを合意した場合に、市場価格8円/kWhのほか、4円/kWhを精算するケースを表している。ただし具体的な検討にあたっては、商品先物取引法やデリバティブ会計等の法律・会計上の取り扱いを踏まえる必要がある。
同時市場を運用するためには、一般送配電事業者(TSO)の中央給電システム等の抜本的な改修も必要となることから、その市場創設は最速でも2028年度以降と想定されている。
同時市場の制度設計においては具体化すべき多くの論点があるが、2023年春を目途に、これまでの議論の取りまとめを行う予定とされている。
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