航空分野の脱炭素化はどうすべきか? 持続可能な燃料やクレジットの活用動向:法制度・規制(3/3 ページ)
航空分野における脱炭素化はどのように進めていくべきか――。2050年カーボンニュートラル実現に向けた施策として、航空分野で検討が進んでいるSAF(持続可能な航空燃料)やオフセットクレジットの動向を中心に紹介する。
カーボンクレジットによる取り組み
国際航空会社は、新技術の導入や運航方式の改善、「CORSIA適格燃料」として認証されたSAFの利用等の手段により削減してもなお、ベースラインから増加するCO2排出量を、市場メカニズム(カーボンクレジット)によりオフセットすることが求められる。(2035年まで)。
カーボンクレジットには、国連・政府主導や民間主導のものなどさまざまなものが存在するが、CORSIAで使用するには、排出クレジット適格性基準(EUC)に適合し、「CORSIA適格排出クレジット」としてICAO理事会から承認を受ける必要がある。
EUCでは、追加性があることや、二重計上を防止する手段を有することなどを求めており、現時点、CORSIAで使用可能なクレジットは以下の9種類に限られる。
- American Carbon Registry (ACR)
- Architecture for REDD+ Transactions (ART)
- China GHG Voluntary Emission Reduction Program
- Clean Development Mechanism (CDM)
- Climate Action Reserve (CAR)
- Forest Carbon Partnership Facility (FCPF)
- Global Carbon Council (GCC)
- The Gold Standard (GS)
- Verified Carbon Standard (VCS)
このため国は、J-クレジットおよび二国間クレジット制度(JCM)によるクレジットをCORSIA適格とすることを目指し、まずはJ-クレジットを先行して申請手続き中である。EUCに適合するため、国はJ-クレジット制度文書や方法論の改定を行っている。
CORSIAオフセットによるJ-クレジット需要は、2024年において数百万トンに上るとの試算もあり、J-クレジットの累計認証量895万トンと比べても、大規模な需要が生まれることとなる。
ただし、CORSIAでJ-クレジットが「オフセット」されると、パリ協定第6条の「相当調整」における「オンセット」義務が生じることにより、日本国内の排出量は増加することとなる。よって制度目的を踏まえ、J-クレジットの利用は日本発着便に係るCO2排出に対するオフセットへの活用を前提とする。
航空機の脱炭素化に向けた新技術官民協議会 ロードマップ
本稿では紙幅の都合上、主にSAFとカーボンクレジットを取り上げたが、「航空機の脱炭素化に向けた新技術官民協議会」では、航空機の電動化や水素航空機、軽量化など日本企業が持つ優れた環境新技術について、官民が戦略的に国際標準化等に取り組んでいくべき国内連携体制の構築および制度整備等についてまとめたロードマップを策定している(図8のほか、電動化分野、水素分野、軽量化効率化分野のロードマップも策定済み)。
国は、2023年度以降は分野別技術WGを立ち上げること等により、航空分野の脱炭素化に向けた検討を深める予定としている。
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