CO2の「海底下貯留」商業化に向けた課題とは? 環境省が関連制度を見直しへ:法制度・規制(4/4 ページ)
カーボンニュートラルの達成に向けた方策として導入検討が進んでいる「CCS(二酸化炭素回収・貯留)」。その貯留先の一つとして検討されているのが「海底」だ。環境省では専門の委員会を設置し、今後の海底下CCSに係る海洋環境の保全の在り方や制度見直しについての検討を開始した。
事業譲渡や事業者破産等への対応
今後のCCS事業が商業ベースで実施されることを踏まえると、当初許可を得た事業者が他者に事業を譲渡することや、実施者の破産等が起こることも想定される。
しかしながら、現行の海洋汚染等防止法では、企業合併又は分割後に当該事業を承継した法人が、許可廃棄者の地位を承継することは規定されているものの、事業譲渡に関する規定は無い。このため、今後は環境大臣の承認を前提として、事業譲渡により適切に事業が引き継がれる仕組みを創設することとする。
また現行制度では、不適正事案が生じた際には許可を取り消すことができるものの、許可を取り消してしまうと、主たる対応を行う者が存在しない状態となってしまう。このため、不適格な事業者であっても許可の取り消しではなく、改善命令を発令することで対応するなど、事実上、許可取り消しができないという課題が存在する。
よって、許可を取り消された事業者に対しても、事業を適切に終了させるための仕組みの創設に向けて検討を行うこととする。
国外での海底下CCSを目的としたCO2輸出
今後は国内の海底下だけでなく、国外での海底下CCSを目的として、CO2を国外に輸出することが想定される。
2023年6月に公表された「先進的CCS事業」7案件のうち、2案件が海外案件であるほか、経済産業省は日本とマレーシアの2国間でCCS事業を実現するために、CO2の越境輸送・貯留に関する協力覚書を締結済みである。
ところが先述のとおり、現時点、日本は96年議定書第6条改正を受諾しておらず、暫定的適用宣言も行っておらず、現行の海洋汚染等防止法にはCO2の輸出に係る規定はない。このため、国は、96年議定書第6条第2項の受諾に向けて、まずは国内制度を整備することから開始することとする。
なお、マレーシアは96年議定書の非締約国であるため、仮に日本からCO2を輸出する際には、マレーシア政府が96年議定書に沿った許可体系を整備する、もしくは同議定書に沿った輸出側の許可体系を準用することへ同意することなどが必要となる。
今後、環境省委員会では、海洋環境の保全を大前提として、商業ベースのCCSに対応した海底下CCS制度の見直しの検討を進め、2024年1月を目途に報告書を取りまとめる予定としている。
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