鉄鋼や化学など「CO2多排出産業」のカーボンニュートラルに向けた投資戦略とは?(4/4 ページ)
政府はカーボンニュートラルと経済・産業競争力の強化を両立するGX戦略として、産業分野別のシナリオや投資戦略の策定を進めている。本稿では鉄鋼や化学などのいわゆる「CO2多排出産業」について、現在検討されているGX投資戦略の概要を紹介する。
紙パルプ分野のGX投資戦略
紙の製造工程は、木質チップと古紙を原料にパルプを作る前工程と、パルプから紙を作る後工程から成り、木材に含まれるリグニンを除去する工程や、液状化したパルプ(水分99%)を乾燥し、紙にする工程では多くの熱や電気を必要とする。
近年、紙(新聞用紙、印刷・情報用紙)の需要は大きく減少しているが、セルロースナノファイバー等のバイオリファイナリー事業やバイオエタノールへの事業展開を進めている。
GX投資促進策の適用を求める事業者は、石炭火力等の燃料を黒液(木材からパルプを製造する際の副生物)等へ切り替える「燃料転換」等により、50%以上のCO2削減率を見込む設備の投資計画や、バイオリファイナリー設備増強の見通しを示した先行投資計画を提出することが求められる。
紙パルプ分野では今後10年程度において、官民投資額を1兆円、国内で約400万トンのCO2排出削減を目標としている。
セメント分野のGX投資戦略
セメント製造では、原料の石灰石の焼成により脱炭酸(CaCO3→CaO+CO2)することでCO2の発生が不可避であるほか、キルン等での焼成工程と自家発電・ボイラーの燃料として石炭等の化石燃料を利用することにより、CO2が発生している。
このため、セメント産業のカーボンニュートラルの実現に向けては、
- 焼成工程や石炭火力等の燃料を、廃棄物やバイオマス等へ切り替える「燃料転換」
- 廃コンクリート等をリサイクルし、CO2の回収・再利用を伴う「原料転換」によるカーボンニュートラルセメントの生産拡大
を並行して進めることで、資源循環を通じた構造転換による脱炭素化を進めることが重要である。セメント分野では今後10年程度において、官民投資額を1兆円、国内で約200万トンのCO2排出削減を目標としている。
GX立地競争力の強化
本稿では、鉄鋼や化学等の素材産業を取り上げたが、我が国の強みと言われる素材から最終商品までのフルセットのサプライチェーンを国内に維持するため、今後も分野別投資戦略をブラッシュアップすることにより、GX立地競争力を高める方策が不可欠とされる。
「成長志向型カーボンプライシング構想」により、国内にGX市場を確立し、サプライチェーン全体をGX型に革新していくことが求められる。
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