三次調整力の調達手法にも影響、再エネ発電の予測精度を高める新手法の導入効果:エネルギー管理(3/3 ページ)
電力系統の安定化に必要な調整力を、適切に確保するために重要な変動性再エネ電源の発電量予測。政府の委員会で、その予測精度の向上に向けた新たな手法の導入効果などが報告された。
三次調整力②の調達方法の見直し
FIT特例制度に対応する調整力である三次調整力②は、現行制度では、過去実績をもとに統計処理した最大値相当(3σ、いわゆる99.87パーセントタイル値)の量を確保している。
今後は三次②の効率的な調達を行うため、前日段階では1σ相当値(いわゆる84.13パーセントタイル値)を調達したうえで、不足すると判断した場合には時間前市場から追加調達を行うことへ見直す予定としている。
時間前市場で追加調達することによって、より新しい気象情報を使用することが可能となるため、再エネの予測精度を確認したところ、実需給に近い前日夕方の予測誤差の方が、前日朝の予測誤差に比べて小さく、再エネ予測精度が向上していることが確認された。
1σ相当値調達時のアンサンブル予報の適用
先述した現行のアンサンブル予報は、「3σ相当値」の誤差発生に対する予測信頼度を用いた三次②必要量低減の取り組みであり、今後、前日市場における三次②調達量を1σ相当値へ変更した場合、アンサンブル予報を継続適用することへの影響が生じることも考えられる。
定性的(理想的)には、予測信頼度が低い方が誤差が大きくなると考えられ、図9のイメージでは、誤差の大きい日の上位50%が信頼度Bと設定されたと仮定する。また、A+Bテーブルとは、信頼度にかかわらず全日の誤差実績を母集団とする、全データ(A+B)の必要量テーブルである。
図9の左側のように調達量が3σ相当値であれば、Bの必要量と「A+B」の必要量の差はわずか(0.5%)であるものの、1σ相当値の場合、Bの必要量はA+Bの必要量と比較して増加幅が拡大(8%)するため、Bテーブルを用いると全体として三次②必要量が増加することも考えられる。実際に2022年度実績を用いて試算すると、アンサンブル予報を適用したほうが、適用しない場合より三次②必要量が増加する結果となった。
このため、1σ相当値調達への変更後は、信頼度Aの日については現行と同様に、必要量低減が見込まれるAテーブルを用いて必要量を算定し、信頼度Bの日については、アンサンブル予報を用いない従来(A+B)テーブルを用いて必要量を算出することに変更することにより、アンサンブル予報による三次②必要量低減効果と、効率的な調達の両立を図ることとする。
この考え方に基づき、従来テーブルと比較した必要量の低減効果をエリアごとに確認したところ、北陸エリアを除き、新手法の方が三次②必要量が低減する結果となった。
北陸エリアは地理的に狭く、予測における前線や雲の位置ずれなどによるエリア全体の日射量・発電出力への影響が他エリアより大きいため、信頼度Aの日において再エネ予測の「大外し」が多かったことが、必要量増加の原因と考えられる。このため、1σ調達への変更後、まずは北陸以外の8エリアでアンサンブル予報を適用することとする。
本稿では、主に再エネ出力予測に関わる論点を報告したが、三次調整力②の効率的な調達については、時間前市場での入札(売り・買い)などさまざまな実務的・技術的な論点がある。広域機関では今後も国と連携し検討を進め、導入時期(1σ相当値調達+時間前市場追加調達)を示す予定としている。
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