「同時市場」の導入後、調整力の区分や必要量はどう変わるか?:エネルギー管理(4/4 ページ)
調整力や供給力のより効率的な調達を目的に導入が検討されている「同時市場」。同市場では調達すべき調整力の「区分」や「量」が変わる可能性があり、その取り扱い方法の検討が進んでいる。現在議論されているその内容や、今後の見通しを紹介する。
調整力商品の必要量の試算
先述のとおり、平常時の時間内変動に対応する調整力(一次、二次①)関しては、同時市場への移行後もその必要量は変わらないと考えられる。
また、緊急時への対応としては主に「電源脱落」が想定されるが、電源脱落は同時市場への移行後も発生するものであり、事前に予測することは困難であり、その必要性は原則変わらない。
現行の需給調整市場において、電源脱落の直後に対応する一次・二次①調整力の必要量は、単機最大ユニット容量(100万kW程度)の系統容量按分値を確保しており、N-1故障で原則供給支障を生じさせないという現行の信頼度基準を前提とすれば、同時市場への移行後もその必要量は変わらないと考えられる。
他方、電源脱落後の周波数回復過程「電源脱落(継続)」においては、一時的には平常時必要量により対応し、その後はSCUCによる追加起動により対応していく方法が合理的と考えられる。これにより、表3の同時市場での必要量は0と表されている。
残余需要誤差に対応する調整力のうち、GC〜実需給に対応する二次②・三次①必要量は、需給バランスの基準がBG計画からTSO計画へと変更されることによる残余需要予測精度の向上に加え、商品区分の見直し(集約)により、実質的に現行の複合商品に近い形となることにより、必要量は減少すると考えられる。
また、前日〜GCに対応するEDC(三次②)の必要量は、SCUCにより起動可能なユニット(SCUC追加分)がどの程度存在するかによって、予備力の必要量は大きく変わり得る。(表3では、0〜4,500MW)
以上より、同時市場に移行した場合の調整力全体の必要量は7,200〜11,700MWとなり、現行の必要量から2割〜5割程度の削減が可能と試算された。
同時市場におけるΔkW確保エリアの考え方
自エリア内の調整力だけでなく、他エリアに存在する安価な調整力を活用する広域調達は、現行の需給調整市場においても行われている。
また、不等時性を考慮した共同調達を行うことにより、調整力の必要量を低減することが可能であり、現行の需給調整市場においても三次②については、中西5エリアと東2エリアの単位で共同調達を実施しているが、現行手法では一定の非効率性があることが指摘されている。
一般送配電事業者の次期中給システムでは、調整力の広域運用が可能となることなどを踏まえ、同時市場では、可能な限り広域運用単位で一括して調整力を調達することとする。
よって、予測誤差に対応する調整力は、北海道から九州までの全国を1つの単位として、また直流設備を跨ぐため広域運用が不可能な時間内変動分調整力は同期連系系統を単位として、ΔkW確保エリアを設定することとする。
今後はノンファーム型接続の適用の拡大にともない、地内でも系統混雑が発生することが想定されるが、ΔkW確保エリア内の混雑をどのような考え方で対応するかについては、今後検討を深める予定としている。
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