非化石証書のトラッキング制度が見直しに、現状の課題と制度変更の方向性は?:法制度・規制(4/4 ページ)
2023年11月に過去最大の約定量を記録するなど、着実にニーズが増加している非化石証書。なかでもトラッキング可能な証書のニーズが高まっているが、属性情報の取り扱いなど課題も指摘されている。政府ではこうした現状を踏まえ、トラッキング制度の見直しを検討している。
優先割当ルールの見直しの方向性
事務局からは、優先割当ルールの見直しについて、契約タイプの違いにより、異なる方向性が示された。
先述の図5のとおり、小売買取はFIT買取量で最大の54%を占めており、このタイプで優先割当が廃止されることは、希望する属性情報を持つFIT証書の流動性向上に寄与し、非化石証書の取引活性化につながると期待される。
また、FIT優先割当が特例的に講じられた仕組みであることを踏まえ、トラッキング情報へのアクセス確保の観点から、経過措置案件を除き、2024年3月末や7月など、できる限り早期に、優先割当を終了する案が示されている。
ただし、現実の事業者間の契約内容は多様であり、エネ庁事務局がこのように線引きを行う根拠は必ずしも明確ではない。
例えば、小売買取は、旧一般電気事業者小売部門による買取と、新電力による買取では、その契約締結の経緯や目的が異なると考えられる。新電力による買取では、新規再エネ電源の開発という意味合いが大きく、2017年度の小売買取廃止に伴い、その代替策として再エネ特定卸供給制度が設けられたと理解できる。
事務局では、優先割当の廃止により、産地を特定した小売メニューの販売ができなくなる可能性や、発電事業者との契約見直しにつながるおそれがあることを理由として、再エネ特定卸供給においてのみ、優先割当を維持する案としているが、同様の理由は、一部の小売買取案件においても当てはまると考えられる。
他方、経過措置の対象と適用期間の設定次第では、実質的にこの問題を回避できるため、経過措置については、事業者へのヒアリング等も踏まえ、慎重な検討が必要と考えられる。
なお、FIT小売買取の新規契約締結は不可能であるが、既存のFIT発電事業者と新たに再エネ特定卸供給契約を締結することは可能であるため、属性情報の優先割当を目的として、個別合意から特定卸供給契約へ移行する事業者が現れることも想定される。
優先割当の場合における入札・約定方法
以上より、再エネ特定卸供給契約や、経過措置対象の小売買取・個別合意案件では、当面の間は優先割当が維持される見込みである。このため、FIT非化石証書のオークションにおいて、買い手は数量や価格のほか、優先割当の対象有無や、対象となるFIT電源の設備IDを入力することが求められる。
優先割当の対象有無については、買い手が入札時に自己申告を行い、JEPXがその申請内容の確認を行うこととする。万一、虚偽の申請などが発覚した場合は、優先割当の即時利用停止などにより対応する。
今後事務局では、FIT発電事業者、小売電気事業者、需要家への追加アンケートを行い、小売買取と個別合意の優先割当に関する経過措置の内容を決定する予定としている。
非FIT証書の全量トラッキング
ここまで主に、FIT証書のトラッキングについて述べてきたが、非FIT証書についても、今後、全量トラッキングが行われ、買い手の選択肢が拡大される予定である。アンケート調査の結果、小売電気事業者の約7割が、非FIT証書の全量トラッキングについて「ニーズがある」との回答であった。
発電事業者(売り手)のレピュテーションリスクへの対策としては、FIT証書と同様に、小売電気事業者や需要家が対外的にトラッキング先の具体的な発電設備名や設置者名を公表する場合には、発電事業者の同意が必要としている。
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