GX/脱炭素が評価されにくい産業を支援、新たに「CO2削減量」のアピールを可能に(3/3 ページ)
素材などの一部の産業では、脱炭素に必要な投資コストは高いが、製品そのものの機能や性状が変わらないため、環境価値が評価されにくいという課題が指摘されている。そこで政府では、企業が消費者に対してアピールしやすいよう、産業特性に沿った新たな評価指標の検討を進めている。
GX市場創出に向けた産業分析
GX市場創出策の検討にあたっては、産業・製品の削減ポテンシャルや経済規模、GX実現に向けた難易度などを踏まえ、「どの分野を」「どのような政策で」「どういった基準で」評価するかを分析する必要がある。
研究会委員のボストン・コンサルティング・グループによると、排出削減と経済の両面から脱炭素のインパクトが大きいセクターとして、化学、鉄鋼、自動車等を挙げている。
また、鉄鋼・化学・セメント等の素材産業は、「1.脱炭素コストが高い」「2.省CO2を除いては製品自体の機能は変わらない」「3.最終製品に占めるCO2削減効果が小さい」などの特徴があるため、脱炭素に向けた政策的なテコ入れの必要性が最も高い分野であると考えられている。
GX製品の需要創出策には、様々なタイプの手法があり、諸外国においても産業部門の特性に応じた複数の手法を適用することが一般的である。
先行市場コミットメント(AMC:Advance Market Commitment)の一例として、米国政府やAmazon、Appleなどの民間企業から構成される「First Movers Coalition」では、2050年カーボンニュートラル達成に必要な重要技術の早期市場創出に向けて、2030年までに排出ほぼゼロの鉄鋼を購入量ベースで10%調達することなどをコミットしている。
グリーンスチール需要への対応
鉄鋼製造プロセスの脱炭素化に向けては、「電炉化」と「水素還元製鉄技術」が主な方策となるが、いずれも技術開発には長い年月を要すると考えられている。このため、脱炭素化を進めた鉄鋼「グリーンスチール」の早期供給を可能とする手法の一つと考えられているのが、「マスバランス方式」の活用である。
マスバランス方式とは、「ある特性を有する材料または製品を、特性を有しない材料または製品と混合した場合に、インプットに応じてアウトプットの特性を主張することができる管理手法」であり、鉄鋼・化学産業を中心に、活用ニーズが高まっている。
特定の顧客が求める製品に環境価値ΔCO2を配分する(寄せる)という意味では、小売電気事業者が設ける「再エネ電力メニュー」とその残渣メニューの関係性に近いものと考えられる。
日本鉄鋼連盟ではすでに、「マスバランス方式を適用したグリーンスチールに関するガイドライン」を策定・公表しており、マスバランス方式を適用したグリーンスチール製品もすでに複数のメーカーから上市されている。
グリーンスチールは、その製造段階におけるCO2排出削減という環境面での大きなメリットがあるものの、製品そのものの機能としては従来製品と同じであるため、高コストなグリーンスチールに対する需要は現時点では限定的である。
GX市場創出の最重要分野と位置付けられた鉄鋼・化学産業の移行期においては、ΔCO2の環境価値を評価する需要創出制度が求められている。また、EUの炭素国境調整措置(CBAM)のように、GHG排出強度が通商政策において制約条件となりつつある中で、日本鉄鋼連盟はΔCO2マスバランス方式が国際的に認められるよう、各国との交渉を国に求めている。
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