「同時市場」の論点、セルフスケジュール電源や相対契約に関する制度設計の方向性:法制度・規制(4/4 ページ)
調整力や供給力のより効率的な調達を目的に導入が検討されている「同時市場」。最新の「同時市場の在り方等に関する検討会」では、相対取引やセルフスケジュール電源、電源差替の取り扱いなど、電源の調達・運用に関するBGの自由度に関する制度設計について議論が行われた。
前日同時市場後の自社電源余力の活用
発電BGは計画値同時同量のもと、ゲートクローズ時点において、当該BGの計画発電量と実発電量を一致させる義務を負っている。
現行制度では、前日市場の約定後に電源脱落や出力低下等が発生した場合、発電BGは、時間前市場において買い入札をすることや、自社電源の余力(前日市場で約定しなかった電源)を追加起動・出力することにより、計画値に一致させることとなる。
同時市場の導入後も、時間前市場の活用は同様に有効な手段となるが、SCUC・SCED(起動費、最低出力費用、限界費用が最経済となる起動停止計画・経済負荷配分の決定)後に、自社電源を追加起動・出力することは、前日同時市場の約定結果と異なる電源運用を認めることとなる。
ただし、当該発電BG自身の費用負担でこれを行う限りにおいては、他の市場参加者のコスト増となるものではないため、検討会では、発電事業者による前日同時市場以後の自社電源の余力の活用を認めることとした。
なおこれは、図5の電源Zのように、あくまで前日同時市場で約定しなかった「売れ残り」電源の活用を認めるものであり、電源トラブル等に備えるために電源の「売り惜しみ」を行うことを認めるものではない。つまり、このようなケースは、電源Zの限界費用等が時間前市場価格よりも低い場合に限られると考えられる。
相対契約における電源の経済差替への対応
発電事業者と小売電気事業者との間に相対契約(発販一体会社における発電部門・小売部門間の受渡も含む)がある場合、発電事業者は、自社の発電機の限界費用等とスポット市場価格を比較した上で、後者が安価であれば、自社発電機を停止・抑制し、取引所から調達した電気を小売電気事業者に供給する「電源差替(電源の経済差替)」が、経済合理的な行動となる。
よって現行制度においては、電源差替は実質的に、スポット市場からの調達(買い入札)方向のみが考慮されているが、電源差替が可能な電源とは、柔軟に起動停止・出力配分の意思決定が可能な電源であると考えられる。
同時市場の導入後は、このような電源は同時市場に売り入札し、電源のThree-Part情報(起動費、最低出力費用、限界費用カーブ)に基づき市場約定させることが、その制度趣旨に適っていると考えられる。
よって、同時市場導入後は、Three-Part Offer(売り入札)を行う形での電源差替を行うことが可能となるような制度設計を行うこととする。
ただし、これが会計上、デリバティブ取引としての処理が必要となる場合、商品先物取引法上の許可・届出や会計上時価処理が求められるなど、事業者の実務負担が増加し、この利用者は限定的になることが懸念されるため、差金決済ではなく、現物取引として扱うことが重要となる。
このため、現時点、検討会で示されている案は図7のようなものである。発電事業者がThree-Part情報を市場に登録し、図7右下のようにこの電源が約定しない(限界費用10円>市場価格8円)場合、自動的に発電事業者が市場から電気(現物)を購入し、これを小売事業者に引き渡す仕組みである。
自社電源余力の活用や電源経済差替のいずれにおいても、安定供給確保の観点から、電源の起動停止・出力に関して、一般送配電事業者による一元的な把握・管理の仕組みを構築することが求められる。
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