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「エネルギー基本計画」の改定が始動、エネルギー安全保障とGX実現へ――再エネ・原発の行方は?(3/3 ページ)

エネルギー政策の中長期的な方向性を示す「エネルギー基本計画」が見直される。緊迫化した国際情勢に対応し、脱炭素を経済成長につなげる有効なビジョンを策定することができるか。素案は2024年中にもまとめられ、年度内に閣議決定される。

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国際競争に勝てる、予見可能性の高い計画を

 資源エネルギー庁による状況分析と課題提示を受けて、委員からは次のような意見が述べられた(一部抜粋)。なお、経済産業省が選んだ委員の顔ぶれは、以下の通り。

  • 隅 修三 東京海上日動火災保険株式会社 相談役(※分科会長)
  • 伊藤 麻美 日本電鍍工業株式会社 代表取締役
  • 遠藤 典子 学校法人早稲田大学 研究院教授
  • 工藤 禎子 株式会社三井住友銀行 取締役兼副頭取執行役員
  • 黒崎 健 国立大学法人京都大学複合原子力科学研究所 所長・教授
  • 河野 康子 一般財団法人日本消費者協会 理事
  • 小堀 秀毅 旭化成株式会社 取締役会長
  • 澤田 純 日本電信電話株式会社 代表取締役会長
  • 杉本 達治 福井県知事
  • 高村 ゆかり 国立大学法人東京大学未来ビジョン研究センター 教授
  • 武田 洋子 株式会社三菱総合研究所 執行役員(兼)研究理事 シンクタンク部門長
  • 田辺 新一 学校法人早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授
  • 寺澤 達也 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長
  • 橋本 英二 日本製鉄株式会社 代表取締役会長兼CEO
  • 村上 千里 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 理事
  • 山内 弘隆 国立大学法人一橋大学 名誉教授

日本電信電話 代表取締役会長 澤田淳氏

 「産業競争力の強化のためには、電力が安定的に低価格で提供されることが重要。円安でサプライチェーンが日本に戻ろうとしても、電力が高止まりの状況では、国際競争力を向上させることは困難だ。今日、話が出たように、AIやDXで電力需要は増えていく。これを踏まえて、原子力発電をどう進めていくのか、そのステップを明確にしていただきたい。まずは再稼働、最終的には核融合だと思うが、その間には安全性に配慮した次世代原子炉というものもある。石炭火力ついては、これを放棄すべきではない。日本の石炭火力は高性能なうえに、炭素をさらに2割削減できる見通しがついている。カーボンニュートラルの議論は、発電方式ではなく、どれだけ炭素が出るのかを、炭素貯蔵を含めた視点でみていくべきである。金融機関からの資金支援が得られるよう、政策誘導も必要。第7次エネルギー基本計画では、既存電力事業をどう改革していくかも視野に入れていただきたい。また、連系線を拡充するとともに、蓄電所をあわせて建設するなどして、電力システムの安定性や柔軟性を高める施策も欠かせない。電力会社の体制についても、より広域化するなどを検討すべきではないか」

日本製鉄 代表取締役会長兼CEO 橋本英二氏

 「脱炭素は地球規模での共通したニーズであり、プロセスと商品の両面で技術開発力が決め手となる。日本経済復活の大きなチャンスであり、これをものにしていくためには研究開発の実機化、設備投資につなげていくことが重要。実効主体はもちろん我々民間だが、脱炭素の実現に必須のインフラ整備は国主導でなされるべき。その意味で、産業政策の実行に、国がこれまで以上に積極的に関与することを歓迎する。言い換えると、実効主体となる民間として、意志決定をする際の予見可能性を具体的な形で高めていただきたいということだ。電力の安定供給を大前提に投資の意思決定をしていく立場として、新設・リプレイスも含めた原子力技術の安全利用の拡大、移行期対策としての早期再稼働、加えてCO2削減に資する効率的な火力発電所の新設を強く要請する。原子力早期再稼働に向けては、電力使用側の産業界としても、電力会社の後押しができないかを具体的に検討すべきだと思っているところ。予見性を高めていくという意味でも、国民理解や立地地域対策を含め、産業政策の根幹として国の責任ある強い関与をお願いしたい」

三井住友銀行 取締役兼副頭取執行役員 工藤禎子

 「国際情勢は依然として不安定・不透明な状況にある。脱炭素化の推進は引き続き重要だが、エネルギーセキュリティもいっそう重視すべき。例えば、トランジション期において大きな役割を果たすLNGの安定確保に向けた施策や、アンモニア混焼推進に向けたアジアゼロエミッション協同体構想などを通じ、アジア各国との連携を強化していくことも大切。今後の政策の方向性については、エネルギー政策を産業政策とセットで考えていくことが極めて重要。広域送電線の敷設コスト・時間を考えれば、再エネ資源のあるところへの産業誘導施策なども検討すべき。原子力は容量・価格の両面で重要な電源と考えられる。国としてマイルストーンを明示し、着実かつ早急な再稼働を後押ししてほしい。金融機関として電力各社と協議するなかで、キャッシュフローの予見性が乏しいことが、原子力を含めた脱炭素電源投資全体の足枷になっているとの意見を聞く。再エネ、原子力に加え、燃料コストの大幅削減が求められる水素・アンモニア発電など、脱炭素投資を促進する政策を検討し、中長期的な時間軸も示しながら、望ましいエネルギーミックスの実現可能性を高めていかなければならない」

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏

 「カーボンニュートラル・ネットゼロに向かう企業間の競争は激化し、取引先や資本市場からも脱炭素経営が求められるようになった。それを支える産業政策の国家間競争も始まっている。日本がそれを先導していくためには、世界が向かっている目標を念頭に置いたエネルギーミックス、基本計画であることが必要となる。企業の予見可能性を確保するという観点からも、GXに裏打ちされた明確な長期ビジョンを期待したい。地政学リスクの観点、とくにエネルギー自給率が他の先進国に比べて低いなかで、海外のエネルギー資源に依存していることのリスクは大きい。エネルギーの供給を確実に確保しながら、国産のエネルギーに移行していくということを明確にしていくべき。そのうえで、ぜひ検討したい項目としてエネルギー需要の低減がある。デジタル化あるいはAIの利用は、エネルギー需要増加の要因となるだけでなく、エネルギー効率を改善するものともなる。エネルギー需要の見通しについては、いろいろな想定を検討し、エネルギー効率の改善、需要抑制の施策をしっかりと入れていくことが重要。再生可能エネルギーについては、洋上風力はもちろんだが、建築物一体型の太陽光パネルや、空港はじめインフラを活用した発電設備など、さらに導入を加速する施策について検討したい。カーボンニュートラルに向けて、1.5度目標との整合を考えるなら、排出量の多い石炭火力をどう減らしていくか、その道筋についても明確にしていかなければならない」

日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 理事 村上千里氏

 「再エネの最大限導入と連系線強化のスピードアップ、蓄電池の大量導入などに力を入れていくべき。原子力の新増設については、皆さんからたくさん意見が出たが、バックエンド問題のことがあまり触れられていなかった。しかし、これは忘れてはいけない課題。国民的な議論をされないままに、今アクセルが踏まれようとしているが、もっともっと議論が必要だと思う。また、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズアウトについても、具体的に計画に入れていくべき。どんな産業を大切に考えて未来を構想するのか、そのためのエネルギーを何で賄うのかということは簡単には答えられないと思うが、国民皆にとって極めて重要なこと。今回の計画作りにおいては、国民との対話や意見を聞く機会を、その方法もあわせてバージョンアップしてほしい。幅広い有識者や業界へのヒアリングをするというが、脱炭素社会の実現を目指して活動している若者たちの意見を聞く機会もぜひ設けていただきたい」

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