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水素関連市場で台頭する中国勢――グローバル水素市場の動向と日本企業の現在地連載「日本企業が水素社会で勝ち抜くための技術経営戦略」(1)(2/3 ページ)

脱炭素社会に向けて世界的に技術開発が加速する水素関連市場。本連載ではグローバルに競争が激化する同市場において、日本企業が採るべき戦略について考察する。初回となる本稿では、足元の日本市場とグローバル市場の動向、そしてその中における日本企業の位置付けを整理する。

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国際競争が激化する「水電解装置」の動向

 以下では、水素分野の技術革新と国際競争について、グリーン水素を例により具体的な検証を行いたい。グリーン水素の製造プロセスを見たときに、資本コストの多くを占める水電解装置の開発と商用化について、その国際競争の激化が昨年頃から話題になっている。まず、改めてその現状を整理したい。

 2023年1月に欧州特許庁が国際エネルギー機関(IEA)と共同で、水素に関連する特許のグローバル動向についてまとめた報告書「Hydrogen patents for a clean energy future」を発表した。これによると、アルカリおよびPEM方式の水電解装置の特許出願数(対象期間は2011〜2020年)は日本が首位であるにも関わらず、それが実際の製造キャパシティ、つまり商用化に向けた実投資に結び付いていないと指摘されている(図1)。


 図1: 水電解装置の製造キャパシティと特許出願数に関する国別比較(出所:Hydrogen patents for a clean energy future)。特許出願数(左側縦軸の一番下「International patent families (2011-2020)」)ではいずれの技術においても日本(薄緑色)が上位にあるが、製造キャパシティ(縦軸一番上「Current manufacturing capacity」は現在、中央「Planned capacity for 2025」は2025年時点のキャパシティ想定)では欧州や中国、米国が上位で、日本はアルカリ型で僅か存在する程度。

 一方で欧州は近年、着実に製造キャパシティを拡大してきた。2022〜2024年に欧州内で納入された水電解装置のうち、8〜9割が欧州域内で製造されたものと言われている2。以下の図は2024年に稼働したグリーン水素案件の一覧だが、欧州では大企業からスタートアップまで、幅広い企業が水電解装置の製造販売に参入していることが分かる。クリーンエネルギーや安全保障上の懸念があるテーマについては、欧州は投資のみならず技術自体も域内で完結させようとする方針が見てとれ、日本企業が海外市場戦略を検討する上では一つ大きな論点であると考える。


図2:2024年中に稼働した水電解装置プロジェクト(出所:IEA Hydrogen Production Projects Database)。2024年に稼働した水電解装置プロジェクトのうち、水電解装置の製造メーカーが公表されている案件を一覧化したもの。

2.2024-State-of-the-European-Hydrogen-Market-Report.pdf

価格面で大きな存在感を見せる中国勢

 次に価格面の動向を見てみる。国際エネルギー機関(IEA)が2024年10月に発表した「Global Hydrogen Review 2024」では、2023年の水電解装置の資本コストはアルカリ型で2,000米ドル/kW、PEM型で2,450米ドル/kWと試算している。一方、中国で製造されるアルカリ型電解装置は約750〜1,300米ドル/kWに達する可能性があるとしており、既に4〜6割安いという状況である。

 アルカリ型において中国の製造能力の拡大は目覚ましく、中国国内の巨大な需要を利用したこのスケールメリット戦略の結果が、コスト競争力に表れていると理解できる。クリーンエネルギー領域において世界シェアを次々と獲得してきたこれまでの中国の実績を思えば、中国の技術を「安かろう悪かろう」とはもはや言えず、世界や時代のニーズを先取りしながら今後も技術革新を続けていくことは確実であり、日本企業もこの動きを考慮し自社戦略に落とし込む必要性がある。

 こうした中国の動きを脅威と捉え、欧州も新たな方針を打ち出している。2023年に欧州委員会が設置した「欧州水素銀行」は、グリーン水素製造の支援に向けた競争入札を実施する機関であり、2024年初頭に第1回入札を実施した。この結果、落札された案件において多くの調達を中国に依存していることが問題となり、2024年12月に実施予定の第2回入札では、中国国内で表面処理、セルユニットの生産、または組み立てが行われた電解槽スタックの調達を25%以下に制限しなくてはならないという、新しい基準が盛り込まれている。

 前掲の図2の通り、これまで欧州で運転を開始したプロジェクトの多くは域内企業の製造によるものであったが、中国の急速な生産能力拡大とコスト競争力の高まり、かたや欧州ではインフレによって水素製造コストが増加したことで、欧州でも中国製製品の採用が加速した格好だ。そこで欧州では、太陽光パネル等などの過去の製品での経験を踏まえ、政策的措置レベルでの対策に踏み切っている。

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