「電圧」の問題による不安定化が課題に──電力系統運用の現状と対策:第5回「次世代電力系統WG」(1/4 ページ)
再エネ電源の増加や需要家側設備の影響により、「電圧」に起因した系統の不安定化リスクが指摘されている。そこで資源エネルギー庁の「次世代電力系統ワーキンググループ」では、適正な電圧維持を通じた系統の安定運用に向けた対策について検討が行われた。
電力の品質は、電圧や周波数、波形、供給の継続性等の要素で評価され、これらが安定しているほど「電力品質が高い」と評価される。電気事業法では一般送配電事業者等に対して、供給する電気の電圧及び周波数の値を省令で定める値に維持するよう努めることを求めている。
電力広域的運営推進機関は毎年度、「電気の質に関する報告書」を公表しており、「電圧」については、これまで全国約6,600地点すべての測定箇所において、維持すべき電圧(100V及び200V)を逸脱した実績は無かったと報告されている。
しかしながら近年、一部のエリア・系統では、再エネ電源や需要家設備等が原因となり、「電圧」に起因した系統の安定運用への影響が出始めている。基幹系統における軽負荷期の電圧は、全国10エリアのうち3エリアで「JEC最高許容電圧(系統でまれに発生することのある最高限度の電圧であり、電線やがいし等の絶縁設計に使用される電圧値)」を一時的に超過している。
また、2025年4月に欧州イベリア半島で発生した大規模停電は、電圧調整の不備が主な原因であったと報告されている。
このため、資源エネルギー庁の「次世代電力系統ワーキンググループ(WG)」では、中部エリア・東京エリア等の現状を踏まえ、適正な電圧維持を通じた系統の安定運用に向けた対策について検討が行われた。
欧州イベリア半島大規模停電の要因
2025年4月28日12:33(現地時間)、スペインやポルトガルを含むイベリア半島全域で大規模停電(ブラックアウト)が発生した。停電前の需要は31GW程度であり、翌日29日にほぼ復旧した。
欧州の送電系統運用者団体であるENTSO-Eは、この全域停電に関する中間報告書を公表しており、停電の第一の要因は「系統電圧の上昇とこれによる連鎖的な電源等の停止」と報告されている。電圧上昇を原因とするこれほど大規模な停電は、これが初めての事例と考えられる。
交流電力は、「有効電力」と「無効電力」の成分に分けられるが、無効電力が供給されると電圧が上がり、無効電力が消費されると電圧が下がるという関係にある。
火力発電等の同期電源は、「電圧一定制御」により、発電機端子の電圧が一定となるよう無効電力の供給・吸収を調整するのに対して、太陽光等の非同期電源は「力率一定制御」により、有効電力出力に対して一定比率で無効電力を供給・吸収するが、電圧の変動を抑制する能力は相対的に低い。
よって、一般的に電力系統の電圧調整能力の多くは同期電源が担っているが、停電当日のイベリア半島では火力等の並列台数は今年最小であった。
また、直前に複数回発生した系統動揺とこれに伴う電圧低下への対策として、リアクトルの解列や送電線の並列が行われたが、これが電圧上昇を招いた。フランス向きの潮流が減少したことや、下位系統からの無効電力の流入も電圧上昇の一因となったほか、電源による無効電力吸収が十分でなかったことも指摘されている。
系統の電圧上昇は電力設備を損壊させる原因となるため、これを防ぐための保護装置が設けられている。イベリア半島では、一部の不適切な過電圧保護による発電機の連鎖脱落が、全域停電に至った直接的な原因と推測されている。
このように、全系停電に至る電圧上昇が生じた原因は、複数の要因が重層的に生じたことにあるが、現時点すべての事象が明らかになっておらず、ENTSO-E最終報告書は2026年第1四半期に公表される予定である。
イベリア半島停電に関するデータの取得には、「PMU」(電力系統における各地点の電圧・電流・位相情報を、GPSの時刻情報に同期して常時計測する装置)が一定の役割を果たした。現在日本でも、PMU導入に向けた検討が進められている(参考記事:再エネの拡大で懸念される系統安定性 系統データ計測を精緻化へ)。
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