太陽光発電のケーブル盗難問題は新フェーズに──被害状況と深刻化する保険問題の最新動向:太陽光発電協会(JPEA)に聞く(3/3 ページ)
太陽光発電事業に大きな被害を与えているケーブル盗難の問題。足元の盗難被害の最新動向や、事業者が取るべき対策のポイントについて、太陽光発電協会(JPEA)シニアアドバイザー・政策推進担当の杉本完蔵氏に話を聞いた。
三位一体の取り組みを──いま事業者にできる“自衛策”
──ケーブル盗難撲滅に向けては、多面的な対策が必要になりますね。
杉本氏 はい。盗難の防止・抑制には、「入らせない」「取らせない」「買い取らせない」という三位一体の対策を講じていくことが必要です。このうち「買い取らせない」はついては、新しくできた金属盗対策法が大きな役割を担っていくことになるでしょう。そして、「入らせない」「取らせない」は、発電事業者やO&M事業者がとっていくべき自衛策となります。
「入らせない」においては、センサーやAIカメラなどによる監視と、光・音・警告などで犯人を威嚇し犯行を牽制することが基本となります。「取らせない」とは、たとえ施設内に侵入されても、簡単に盗めないさまざまな対策のほか、被害にあわないよう、ケーブルを物理的に防護することなどが重要となります。
──事業者ができる盗難対策について、具体的に教えてください。
杉本氏 まず、「入らせない」ためには次の対策が有効です。
- 1.フェンス・柵・鍵など防犯対策を強化し、草刈により所内が外から見えるようにする
- 2.セキュリティシステムや侵入アラートシステムを導入し、夜間を含めた監視を行う
- 3.侵入者に対して光と音で威嚇する設備や、記録可能な監視カメラを設置する
- 4.警備員の常駐、施設に対する定期的な巡回を実施する
次に、「取らせない」ためとしては次の対策を推奨します。
- 5.コロガシ配管(地上配管)を避け、地下埋設配管を行う
- 6.地下埋設配管のハンドホールに強固なロックを設置する
- 7.監視システムのケーブルが切断されないよう管路を保護する
- 8.侵入を検知した場合に緊急駆けつけが可能な警備会社等と契約する
- 9.近隣の方々や発電所間の防犯協力、地域共生の推進による防犯体制を構築する
- 10.盗んでも銅のように高く売れないアルミケーブルに置き換える
その他、「災害・盗難対策ガイドライン」や「リスク対策チェックシート」にも、より詳しい対策ポイントを記載しております。JPEAのWebサイトから、どなたでもダウンロードできますので、ぜひともご活用いただければと思います。
太陽光を“社会インフラ”として守り抜くために
──こうした状況のなかで、太陽光発電の存在意義を改めてどう考えますか。
杉本氏 太陽光発電は、いまや日本に不可欠な社会インフラです。晴れた日には国内電力の約3割を供給しています。CO2を出さない国産の脱炭素電源として、今後、一層導入量を増やしていかなければならない存在です。
ケーブル盗難は、太陽光発電の運営を危うくするものであり、単に事業者の資産が奪われるというだけの話ではありません。ケーブル盗難は社会インフラを毀損し、電力の安定供給をおびやかすことに他なりません。事業者のみなさまが防犯対策を強化し、自社の設備を「狙われない発電所」にしていくことは、社会インフラを守ることにもつながっているのです。
そうした認識のもと、JPEAとしては今後とも、リスク情報の共有などを通して事業者の取り組みをサポートしていくとともに、国にも積極的に働きかけ、ケーブル盗難撲滅に向けた社会環境整備に努めていく考えです。そして、現在直面している保険問題についても、より広範な取り組みを進めてまいります。
──将来に向けては、企業間や地域社会との連携も欠かせません。最も大切にすべきは、どんなことでしょうか。
杉本氏 これからは、地域の発電事業者が連携して見回ることや、共同で保険を組むことなども検討される必要があるでしょう。そして、地域の方々との連携による防犯体制についても考えてみるべきでしょう。そのためには、“地域共生”を推進し、地域に望まれる太陽光発電であることが、ますます重要になってきます。
ケーブル盗難という一見“局所的な犯罪”は、実際には再エネの信頼を揺るがす“重大な社会問題”です。法律による抑止、行政の取締り、業界の自助努力、保険──それらが有機的に結びつくことで、ようやく解決へと向かいます。持続可能な発電事業を未来へとつなぐために、協力して取り組んでまいりましょう。
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