第7回 コンテンツ論から見る「放送」と「通信」(2):誰がキラーコンテンツを“殺して”いるのか?
フジテレビとライブドアの業務提携に向けた初会合が開かれたが、コンテンツのネット配信をはじめとする「ネットと放送の融合」へ向けた取り組みは先送りされることになった。こうした動向を踏まえつつ、「マルチウインドウ展開」の視点からコンテンツにおける「通信と放送の融合」の課題を探ってみたい。
まだ見えない「ネットと放送の融合」への道
5月10日にフジテレビとライブドアの業務提携への初会合が開かれた。そこでは、双方の収益につながる共同事業に優先的に取り組む方向で話が進んだが、コンテンツの再配信をはじめとする「ネットと放送の融合」は先送りされる形になった。
ネットでのコンテンツ配信に関しては、著作権の処理が複雑なためサービスの実現が困難であることが、先送りの理由として説明されている。
たしかに著作権が大きな壁として存在することは間違いない。しかし、大きな収益を生むことが確実であれば、著作権者への収益配分の仕組みづくりをはじめとして、サービス実現へ向けた具体的な取り組みが進められるはずだ。
問題なのは、インターネットでのコンテンツ配信が「大きな収益を生むのか」が不明確な点にある。
コンテンツの「マルチウインドウ展開」
現在のコンテンツビジネスにおいては、コンテンツをさまざまな媒体に時間差を設けて露出させることで多角的に収益を上げていく「マルチウインドウ展開」を取るのが一般的である。
コンテンツの価値は時間とともに急速に低下していくものだ。そうした意味でコンテンツは「生もの」であると言ってよい。そうした中で収益を最大化させるためには、ユーザー(視聴者)数が多く、収益性の高いウインドウから優先的にコンテンツを露出させていくことが重要である(下図)。
日本の場合は、テレビが最初のウインドウになることが多い。テレビドラマを例に取ると、第一にテレビ放送でオンエアされ、その数か月後にビデオ・DVDが発売され、ケーブルテレビやCSなどの多チャンネル放送で再放送される、といった展開が一般的である。
インターネットでコンテンツが配信される場合、現状では3次利用、4次利用といったかなり後の段階で行われており、この時点でコンテンツの価値はかなり低下してしまっている。
そこから大きな収益を得ることは難しく、コンテンツホルダーにも「小遣い稼ぎ」程度の収益しかもたらさないのが普通である。
マルチウインドウ戦略における放送の論理、通信の論理
ネット事業者がコンテンツ配信で利益を享受するためには、インターネットに優先的にコンテンツを露出させることが重要である。
一方で、放送側にとってみれば、インターネットを優先させることは、他の媒体の優先順位を下げることでもあり、ひいては既存の収益モデルを崩すことにもつながる。
もちろん、莫大な収益を生むという確証があるのであれば、放送側としても積極的にインターネット優先順位を上げていくには違いない。
しかしながら、現状はそうなっておらず、将来的な可能性も見えていないのが現実である。もちろん放送局側も将来を見越した上でネット配信への取り組みを進めている。しかしながら、これまでの収益モデルで成功を収めている放送側が、みずから進んでそのモデルを崩していくことは考えにくい。
コンテンツにおける「放送と通信の融合」の実現のためには、マルチウインドウ戦略の中で「放送」と「通信」の利害をどう調整していくのかという視点を忘れてはならない。それと同時に、コンテンツ露出の「ウインドウ」としてのインターネットの価値を最大限に高めていく方策が必要となる。
次回は、コンテンツの「価格」の視点から、コンテンツビジネスの課題を探ってみたい。
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